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彼の残り香を消したかった。空気を入れ替えようと窓を開けたら、滅入っている気分が後ろめたくなるほどに天気が良かった。
久し振りに外に出てみようかなって思って、近くの大きな公園まで行ってみた。小学生たちが写生大会をしているのに出くわした。
「ウチも子供んときは好きやったなあ。絵ば描くことの楽しゅうてたまらんかったとになあ」
呟きと同時に必要な物を一つ思い出した。その足でスケッチブックと画材を買って帰った。
有給休暇は数日残っているから旅に出てみようかなって思った。行きたい所は決まっていた。無人島に行きたかった。だってその場所は物と人が切り離された場所に違いないから。喧騒から一番遠い場所。今の私と同じような虚無が寄り添ってくれるだろうと思った。
調べたら五島列島に『野崎島』という無人島があるのが分かった。小値賀町産業振興課に電話してみたら明日からの体験ツアーが予約出来た。
JRの電車で佐世保港まで行って、『九州商船フェリーなるしお』に乗って、小値賀町まで三時間くらいだった。ちょっとだけビールを飲んで寝ていたらいつの間にか着いていた。目的の島まではその港から『町営船はまゆう』で三十分くらいだった。ちょっと波が荒くて、小さな船が何回もバウンドして怖かった。
二泊三日分の米と野菜と画材の入ったリュックサックを背負って島に上陸した。ちょっと重かったけど、なんかその重みを背負っているから足取りが軽はずみにならないような気がした。
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