輪郭線の音色

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   気を取り直して先に進まなきゃ。宿泊施設まで歩かなきゃ。  島の入り口に敢えて残してある廃村を抜けたら、緩やかな坂が始まった。段々畑があった。野菜は植えられてないけれど、なんで網や柵がしてあるのだろう?   キョロキョロしながら坂道を登っていたら、一緒に上陸した別のキャンプの人達から置いてけぼりにされた。 「よかもん。一人旅やっけんゆっくり歩くもん」  失恋したばかりだから、センチメンタルジャーニーになるかなって思っていたのに、悲哀の色の濃い廃墟を見た後では自分の陳腐なセンチメンタルはどこかに消えてしまった。  廃村を抜けたら太陽の振り注ぐ坂道が待っていた。モルタルの中に埋もれた砕けた貝殻がキラキラ光って星のように見えて綺麗だった。  気配を感じ顔を上げたら、山の方から大きな生き物が勢いよく走って来て、私の傍をすり抜け、びっくりして尻餅を突いてしまった。野性の鹿だった。可愛いいだけじゃなくて、凛としたしなやかさもあって、その背筋を伸ばして立っている姿は、私がなりたい女性像のような気がした。山肌を見たら何匹もいた。後でスケッチしようって思った。ちなみに島には五百頭の野生の鹿がいるそうだ。
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