輪郭線の音色

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   星を塗した坂を登り切ったら、舗装の道がなくなって、砂利を敷いた赤い道になった。道幅に削られた山側の赤土の断面と、その上の段々畑を支える石垣のコントラストが南米の村を想わせる雰囲気だった。反対側の崖の向こうには、青よりも青過ぎる遠い海が見えた。真夏の太陽を反射した波頭は、美しく透き通った宝石の表面の輝きと同じだった。私はその頂上に腰を据えて海の景色をスケッチしてみた。絵の具を溶かす水がなかったので、チューブから直接出して塗っていたら、目の前の濃い自然の色が再現出来なかった。それでもなんとか表現しようと色を重ねた。出来上がった絵は油絵のように色が厚かった。まるで今までの私の個性のように無駄に濁った色が氾濫した絵だった。  絵は拙く汚く残念な出来だったが、心のままに描く行為に忘れていた自分らしさが見つかる気がした。まだ最初の一枚だ。気を取り直して歩みを進めた。  辿り着いたキャンプ場は、浜木綿の浸食した砂浜とグラウンドの境目が曖昧な海沿いの丘にある廃校の小学校だった。宿泊施設として開放されている建物は慈しみで保全されていて、今でも子供たちが学んでいそうな佇まいだった。校舎の中に足を踏み入れて郷愁の念に襲われた。また涙が出そうになった。  キャンプに来ていた別グループの子供たちが校庭で賑やかにボールを追い駆けていた。その姿をスケッチしてみた。やっぱり出来上がった絵は濃くてみっともなかった。 「なんでやろ?」そればっかり考えた。  砂浜に繋がる浜木綿の丘をスケッチした。波打ち際の近い海を描いた。校舎の裏にある指針の手を伸ばす銅像の絵を描いた。校舎の中にある炊事場で飯盒炊飯して野菜がゴロゴロ入ったカレーライスを作った。釣竿を借りて浜から投げ釣りをしてみたら大きな蛸が釣れたので茹でて食べた。もちろんその全てをスケッチした。
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