輪郭線の音色

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   次の日の早朝はガイドさんの案内で、『沖ノ神島神社』までの長く険しい山道を行脚し、神社の裏手にある二本の巨石がテーブル板石を支えた『王位石』を見に行った。高さ二十四メートル横幅五メートルある、人工物か自然物か分からないミステリアスなパワースポットだ。鈍感な私にはスピリチュアルなことは分からなかったけど、唯々圧巻だった。私は夢中になって力強い石の浪漫を絵に描いた。その場所への往復だけヘトヘトになったけれど、午後からは県文化財でキリスト教関連遺産の教会群の一つである世界遺産の暫定リストに掲載されている『野首天主堂』の赤い煉瓦の外観と、飴色のアーチ状の柱の複雑な天蓋と、白い壁の中に填め込まれた青や黄や緑のステンドグラスの絵を描いた。夢中で鉛筆を走らせて、夢中で色を塗った。  何枚も絵を描くことで分かった気がする。カラーチャートに無い色持つ青い海や、溌剌とした子供達や美しいステンドグラスにあって私にないもの。私の絵を濁った色にしてしまう原因。不足していたのは透明感だった。色を重ねるだけではそれは表現出来ない。美しい水彩画のように心を透過させないと本当の自分の色は見えやしない。  個性は色を混ぜて塗ることではなく、自分だけの色を作りだすことだ。
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