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今回の旅には音の鳴る物を持ってこなかった。島の上には電波が届いていなかったので携帯電話の電源も切っていた。
なのにいつも音楽に満ちていた。
蝉や子供たちの声のリズム、陽と月に合わせ行動するリズム、砂や土を踏みしめるリズム、波が打ち寄せるリズム、米や野菜を味わいながら咀嚼するリズム、スケッチブックの上に鉛筆や筆を走らせ風景を切り取るリズム、その全てが音楽に変わって鳴っていた。旅の日々は優しい歌に溢れていた。
色や味や匂いや肌触りの音色の全てを絵に描いた。
一番素敵な音楽は小学校の校舎の窓一面に飾られていた風鈴たちの音色だった。何百もの風鈴たちが夕方の風に靡いて素敵なアンサンブルを奏でていた。また泣きそうになった。この旅で失恋の痛手を癒そうと思ったのに、彼が去って行ったことなんて全く思い出さなくって、忘れられた島の風景が教えてくれる、忘れてはいけないモノたちのことで涙を流している。
そんなことを考えながら陽の沈みと共に早い眠りに就いた。
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