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その夜、洗面台の鏡に映った自分の顔をまじまじと見つめる。バレエ教室で鏡の前に立っていた時、確かに清美は生き生きとしていた。衣装ケースから、まだ数回しか使っていないバレエシューズをそっと取り出す。
――誰かの何か、じゃなくて、清美さんは清美さんですよね。
セイラ先生の言葉を思い出す。
そうか。私を私たらしめているのは、夫でも息子でも他の誰でもなく、私自身なのだ――。
清美はピンと背筋を伸ばしてから、ソファに座ってテレビを見ながらビールを飲む、夫の待つリビングへ向かう。
改めてバレエ教室に通いたいと告げた清美に、夫は一瞬呆れたような顔をしたが、
「もしも舞台に立つことがあったら、あなたも観に来てちょうだい」
答えを待たずにそう言って、リビングを出ていく清美の威勢に夫は驚いていた。
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