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「私はアシスタントの井出です。わざわざ本当にありがとうございます」
何度もお礼を言って頭を下げるので清美は「いえいえ」と首を振る。
「セイラ先生、パンフレット見つかりました。すみません、ご迷惑おかけました」
井出さんが声をかけるが、セイラ先生と呼ばれたその人は「よかったわね」と一瞥をくれることもなく言うとストレッチを続ける。
さっきの子どもたちのレッスンの後だからか、スタジオは熱気に満ちていて、立っているだけで汗をかきそうだ。それでも、受付に飾られたバレリーナたちの写真につい目を奪われてしまう。
くるみ割り人形、ジゼル、眠れる森の美女、白鳥の湖……。
どれもこの世のものとは思えない美しさ。
「あの、もしよかったら」
井出さんが清美の顔を覗き込む。
「この後、二時から大人のバレエがあるんですよ。体験してみませんか」
「え?」
いいですよね、セイラ先生、と井出さんが声をかけるが彼女はうんともすんとも言わない。心配そうにしている清美に
「あ、何も言わないっていうことは、オッケーってことです。大丈夫です、セイラ先生、口は悪いんですけど、良い先生なので」
井出さんは満面の笑みでこちらに向き直る。
「はあ」
「それにお礼に、といっては何なんですが、ウェアも貸し出しますので」
話を進める。
いやいや、レオタードやタイツなんて着れたもんじゃない。
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