名もなきワルツを踊る

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 準備を終えた生徒たちがバーを運び入れ、各々の位置につき挨拶をしてから始める。  このクラスは過去にバレエを習った経験のない大人のためのレッスンで、ストレッチの基本をはじめ、一番から六番までの足のポジションから教えてもらう。  全面に張り巡らされた鏡で自分の全身姿をまじまじと見つめるのが恥ずかしい。 「最初はちょっと見学してもいいでしょうか」  とてもではないが、いきなりバーに立つことは難しいと思った。スタジオの隅の椅子に腰掛け、生徒たちが一生懸命に動くのを見る。  生徒たちが少しばかり休憩に入ったところでセイラ先生は清美をスタジオの中心に呼び込む。バーに向かい合う形で立つと「やってみましょう」とさっきの足のポジションをおさらいする形で動く。  一番は両足のかかと同士をつけ真っ直ぐに立つ。二番は爪先を外に向けたまま横に開き、三番は片足のかかとをもう一方の土踏まずの浅いところにつける。四番は前後へ足を開き、五番は三番よりも深くかかとをつける。六番は爪先を正面にそろえて立つ……。  どれもやったことのない動きばかり、姿勢も普段は使ったことのない筋肉を使うので戸惑う。ピンと張った背筋にお腹の肉を内蔵にくっつくくらいまで引っ込める。 「こうやって伸ばすんです。やってみてください」 「重心が曲がってますよ」 「それじゃあ、美しく見えませんよ。鏡をちゃんと見てください」  厳しい声が飛ぶ。
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