名もなきワルツを踊る

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 しかし三月も中旬に差し掛かった頃、ついに夫にバレてしまった。 「お前、バレエ教室なんかに通ってるのか」  教室のカードを部屋で見つけた夫が怪訝な顔で尋ねてくる。 「勘弁してくれよ、いい年してみっともない。なんで今更バレエなんか……」 「でも……」 「それより、宏樹の結婚の準備とか、色々あるだろ。ああ、そうだ。あと会社の同期が今度別荘を持つそうだ。一緒に奥様もと言われてるから、週末はそっちに挨拶もかねて……」  やっぱり、夫の反応は思った通り。  清美は言い返すこともできずに黙って夫の小言を聞いた。  その週、セイラバレエ教室にレッスンの始まる少し前に足を運んだ清美は、スタジオの外のベンチで水を飲んでいるセイラ先生に声をかけた。 「こんにちは」 「清美さん、こんにちは。どうぞ、入ってください」 「セイラ先生。その……レッスンなんですが、もう通えそうになくて」  本当は続けたいが、夫に反対されたこと。家族のことで優先せねばならないことが他にたくさんあること。  清美はうつむきながら話す。黙って最後まで聞いていたセイラ先生は、飲んでいたペットボトルをすっと足元に置いてから清美に向き合う。 「そうですか」  何か言われるかと思ったらこざっぱりと一言だけ残し「では」と立ち去ろうとするので、 「あの」  思わず引き止めてしまった。
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