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あ、また増えた。
「お義母さん、ありがとうございます」
薄ピンク色のワンピースの袖を抑えながら、可愛らしく小さく頭を下げる花英さんに「どうぞ」と緑茶を差し出しながら清美は思う。
夫は横で手土産にいただいた最中をパリパリとやっている。
今年で三十になる息子の宏樹は再来月、花英さんと結婚する。目尻と薄くて血色の良い唇が清美によく似ていると昔から言われていたが、性格は昔気質な夫に似て頑固なところがある。
こんなに可憐で気立ての良さそうなお嫁さんをもらって、もったいないのではと母親ながら思う。
挨拶で終始、緊張していたのだろう。帰り、細い足をベージュのパンプスに沈ませたところで、「今日は、来てくれてありがとう」と声をかけると、あげた顔には幾分安心したような笑みが浮かんでいた。
近くのバス停まで二人を見送りにサンダルを突っかける。玄関の表まで出たところで、隣に住む相模さんに出くわす。
あら、佐藤さんのところの奥さん。こんにちは。あら、そうなの。息子さん、ご結婚。まあ、おめでとうございます。
そんな他愛もないやり取りを交わした後、バス停へ向かい二人を見送る。
窓際の二人席に乗り込むと、長く艶の輝く黒髪を揺らしながら、何度も丁寧に去り際の挨拶を窓越しにやる彼女を横目に、宏樹は一度だけこちらに目をやって、すぐに前に向き直る。バスは清美を残して走り去った。
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