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大きな桜の樹の下で
とある広大な大地の上に、桜の樹が一本あった。
見事な桜の樹だった。
学校中の大縄跳びの紐を集めてようやく一周できるほど太い幹に、ブランコを設置してもびくともしない枝。
お面を作れそうなほど大きな葉は桜餅のサイズを年々大きくしていき、一度風が吹けば視界を奪われるほどたくさんの花をつけた。
周りに高い建物もなく、日光の邪魔をする木々もいない。そのため桜の樹は四方八方に枝を伸ばし、年々成長を続けていったのだった。
妖しい魅力を持つその樹は、たくさんの人を引きつけた。
男性も、その一人だった。
その樹につけた全ての蕾が開き切る頃、男性はその桜の樹がある場所を訪れた。
近くまで歩み寄り、見上げ、それから一周、のんびりと桜の樹の周りを歩いた。
最初の場所まで戻った時、男性は立ち止まり、そして桜の樹を見上げた。
男性は、ずっと桜を見上げていた。
なにも言わず、ただ見上げていた。
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