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どのくらい見上げていただろうか。
男性の元に少女が近寄ってきた。手に小さな紙袋を持った、おさげの髪の子だった。
「こんにちは」
明るい調子で少女が言った。男性は、声をかけられて始めて少女に気付いた。
「こんにちは」
男性もあいさつを返す。笑いかけると、少女はさらに明るい笑顔を返してきた。
男性が訊く。
「その手に持ってるのはなにかな?」
「これ? これは肥料だよ」
少女が袋を上げて、男性に見せた。そして、
「この木は、私達が育ててるの!」
自慢した。両手を広げ、樹に背中を向ける。
「私達の村が肥料をあげて、水をあげてるの! 凄い綺麗でしょう?」
「ああ。ほんとに綺麗だ」
男性が本心を言って、伝わったのか少女がまた笑った。
「ありがとう! そう言ってもらえるのが一番嬉しい!」
そして、しばらく二人は桜の樹を見上げたあと、思い出したように少女は肥料を撒き始めた。一人では大変そうなので男性も手伝った。
袋の中にあった肥料を全て撒き終わってから、少女は言った。先ほどとは打って変わって、悲しそうな声だった。
「最近ね、この桜の木、元気が無いの」
「そうなのかい? とてもそうは見えないけれど」
「ううん。毎年みてるからわかるの。花も少ないし、なんだか悲しそう。肥料が足りないのかな?」
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