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 春のうららの、昼下がり。  いつの間にかソファーで眠っていた私は、目が覚めた。  春休み中の私は一人、午前中にあったバスケ部の部活で奪われた体力を回復するため、昼食後にソファーで体を休めていた。  いつものリビングで、いつものうたた寝からの目覚め。  いつもと違うのは、知らない子供が私をジッと見ている事。  まだ夢の中なのかと思いながら、瞬きを何度もする。  でも、しっかり目は覚めていて、確かに子供はそこに居る。  まるで猫と睨み合うように、お互いにジッと相手を観察する。  「えっと、誰?」  中3になる私から、年上の余裕を見せつけるように声を掛ける。  でも、私が声を出したのが合図かのように、その子供はリビングから廊下へ出て行った。  直ぐに追いかけられなかったのは、変な寝方をしていたらしく、足が痺れて立ち上がれなかったから。  ゆっくりと、上手く力が入らない足をかばうように立ち上がり、子供の後を追う。  何とか廊下に出ると、子供はもうどこにもいなかった。  奥のトイレと、お風呂場の方を覗いても居ない。反対の玄関へ行ってみると、引き戸が1/3位開いている。  その引き戸を開けて外を見渡したけど、子供の姿は無かった。いつもの見慣れた景色に唯一二度見したのは、お隣のドラ猫のアオがさっきの子供のようにジッと私を見ていたから。  私はアオを、キッと強く睨むと、直ぐに玄関のドアをしっかり閉めた。  アオは時々ウチに上がり込んで、何故か私が気に入っているタオルやブランケットにくるまって、この家の誰よりもリラックスして昼寝をする、私の敵だ。  動物が苦手な私としては、その状況は恐怖でしか無いけど、動物が好きなお母さんは、その状況を嬉しそうに容認している。猫アレルギーのお父さんは、論外だ。  3,4歳かな?  さっき見た子供の歳を思う。  近所にそのくらいの子供がいたかどうか思い出すが、思い当たる子供はいない。  たまたま通りかかった子供が、ウチに入って来たんかな?  イヤイヤ、たまたま通りかかって、知らへん家に入る?  いくら小っちゃい子供でも、それは無いやろ。  一人、疑問を思い浮かべては、丁寧にツッコむ。  でもそれが、更に謎を深める事になってしまった。    ほな、あの子は何者?  もしかして、かの有名な(わらべ)の妖怪?  イヤイヤイヤ。霊感も無い私に妖怪って見えへんやろ。  ハッ。でも、お父さんは結婚するまでは、知る人ぞ知る「小っちゃいおっちゃん」が見えてたらしいし、私にもその能力が遺伝してて、中学生にして目覚めたんかな?  えっ、ほな。もしかして、幽霊とかも見えたりする?  どんどん飛躍していく自分の考えが怖くなって、小さなリビングを見渡した。  いつもなら見えないモノが、開花した能力によって見えてしまうんでは無いかと思ったけど、いつも見えている物しか見えなくて、場所を小さな仏間に移動してもそれは変らなかった。  特殊能力の確認作業を終え、リビングのソファーに座ると、床に落ちていたスマホの通知が鳴った。  聞き慣れている音なのに、異常に驚いて体が跳ねた。  心臓が耳にあるのかと思うくらい、鼓動が大きく聞こえて、それを落ち着かせるために、胸を押えて深呼吸を3回した。  通知が来たLINEを開くと一人暮らしをしている大学生の兄からだった。  『俺、モデルデビューが決まった!!』  騒がしいスタンプと一緒に送られてきたメッセージ。  メッセージの内容を確信すると、直ぐに、画面の上に小さく表示されている日付を見た。  4月1日。  エイプリルフール。  今年も律儀に我が家の恒例行事を実行している兄を、少し可哀想に思った。  4月1日は家族みんなで騙し合い、笑い合う。それは、物心ついた頃から恒例となっていて「関西のノリが肌に会わない。」と嘆いていた兄にも刷り込まれていた。  私は憐れみを込めて、兄に返信する。  『おめでとう!どの雑誌に載るん?でも、その年でようキッズモデルになれたなぁ( *´艸`)』  お父さんの遺伝子を濃く受け継いでいる兄は、将来的には「リアル小っちゃいおっちゃん」になる事が約束されている。きっとあの身長でモデルが務まるのはキッズサイズしかないだろう。最近の子供は足の長さが異常なので、キッズモデルも無理だろうけど。  『エイプリルフールです。』  私の的確なツッコミに心を折られたらしい兄からの返信に、頷くスタンプだけで返信をして画面を閉じた。でも、すぐに開く。  『お兄ちゃん、幽霊とか見える?』  思い出して、質問する。  『見えへんよ。』  『小っちゃいおっちゃんも?』  『そういう類のものは見えへんよ。何?出た?』  『いや、さっき、知らへん子供が家にいて。もしかしたらと思って。』  『何、それ?エイプリルフール?それやったら、もっと分かりやすいのんにしてぇ~。』  『いや。ガチやし。』  『恐っ!やっぱり、しばらく帰らんとくわ。』  再び画面を閉じて、考えた。  エイプリルフールのネタ。私、まだ出してないわ。  もうえぇっか。私もお年頃やし、こんな事にいつまでも付き合ってられんわ。  明らかな言い訳を、自分だけにしながら、今朝の両親のネタがフラッシュバックのように蘇った。    朝、食卓でお父さんがアフロのカツラを被っていて、「一晩でえらい毛ぇ伸びてしもたわ。」と新聞を見ながらご飯を食べていた。  朝一番に見るには胸やけのするビジュアルに「良かったな。」と静かに返して食卓につく。  ご飯とお味噌汁をよそってくれたお母さんが、私の前にそれらを置きながら、静かに言う。「お母さん、『ハワイ6日間の旅』が当たったから、今日の夜から旅立つし。」お母さんが目線を私から続きのリビングのソファーへ向けると、私もつられるように視線を向けた。ソファーの横には、我が家で一番大きなスーツケースが置かれいる。  「えっ?あの懸賞当たったん?」  お母さんの趣味の懸賞応募で、年末まで頑張ってポイントを貯めていたあの懸賞の事だと直ぐに分かった。  「うん。お土産は定番のチョコレートやしな。」  しかし、これもエイプリルフールのネタであった。  
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