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 日曜日のお昼時。  4月の始めの温かい日差しを全身に浴びながら、お父さんと家路を歩く。  「里奈、この公園の遊具の中にいるかもしれんで。妖怪言うても、相手は子供やからな。遊ぶことには目が無いんとちゃうかぁ。」  お父さんは、嬉しそうに私の先を歩きながら、公園へと進んで行く。  「座敷童捜索隊」は現在も続行中で、遅くに起きてきた私にお父さんが近所を捜索しようと誘ってきた。  「休日の昼間なら、親子連れが多いし、座敷童も遊んで欲しくて紛れているかも知れへんで。」  「それ、もはや座敷童とちゃうやん。」  「ホンマや。でも、現代妖怪は枠にとらわれへんのとちゃうか?」  「納得できひんけど、否定も出来んわ。」  「ほな、期間限定のハンバーガーでどうや。」  「欲しい雑誌も買ってくれる?」  こうして、今に至る。  小さな子供は沢山見たが、私が見た子供はいなかった。益々「座敷童説」が確信に近づいてきて、落ち着きのないフワフワとした感覚が湧き上がる。  金持ち確定?  何か、滅多に出してもらえへんバスケの試合に、スタメンで出る時の気持と似てるわ。    一回しか味わったことの無いその緊張感を、今の感覚と照らし合わせる。  家に帰る道々、お父さんが嬉しそうに話しかけていたけど、全然内容が入って来ず、適当な相槌を打ちながら、家に帰った。  「ただいまぁ~。」  玄関を開けると見慣れない靴があり、リビングから漏れる楽しそうな笑い声が聞こえた。  「お客さんやな。」  お父さんと頷き合って、ちょっと余所行(よそい)きの顔を作る。  リビングの戸を開けてお父さんが発した言葉は。  「へっっ、ぷっしゅん。」  大きなくしゃみだった。  「汚いなぁ。お客さんの前で止めてぇ。ごめんな、佐藤さん。」  お母さんはお客さんである、隣の家の佐藤のおばちゃんに謝った。  「いえいえ。大丈夫?花粉症?」  「そうみたいなんよ。この歳になって、初めてなんやけどね。」  「花粉症に歳は関係ないって言うからねぇ。お大事に。」  おばちゃんは、心配そうに、くしゃみを連発しているお父さんに言葉を掛ける。  「里奈ちゃん、この春から3年生なんやって?早いなぁ。高校、どこ行くか決めたん?」  相変わらずせっかちなおばちゃんは、受験生気分にもなっていない私に進路を聞く。  「イヤ、まだ、全然決めて無いです。」  答えたものの、心、ここにあらずで、目の前の光景に驚いていた。  お母さんの膝の上には、私のお気に入りのタオルにくるまったドラ猫のアオが。  おばちゃんの膝の上には、さっきまで捜索していた童の妖怪「座敷童」がアヒルちゃんを片手に、お菓子に夢中になっている。  「あぁ、この子、孫の(れん)。先月の終わりごろからウチで預かってるんよ。娘の二人目の出産が予定より早まってね。もう退院するから、今度は私が娘の所に行くんやけどね。」  「漣。孫。人間。」  金持ちの未来が泡となって弾けた。  「何?里奈。大丈夫?」  お母さんが怪訝そうに私を見る。私は再び、お母さんの膝の上にいるアオを凝視した。  「お母さん、そのタオル。」  この間行ってきた推しのLIVEのグッズ。お気に入りで、自慢も兼ねて、部活でヘビロテしているのに、何でアオに使う?  「アオちゃん、やっぱり里奈のモンが好きなんやわ。今日もな、TV見てたらアオちゃんが来て、里奈のタオルにじゃれ出したんよ。可愛いなぁと思って見てたら、今度は漣君が一人で来てな。アオちゃんを見てるんよ。『この子誰やろ?』と思ってたら、佐藤さんが訪ねて来やはって、お孫さんやって知ったんよ。」  その状況、思い当たる節があるわぁ~。  ほな、あの時も、アオを追いかけてウチに来てたんか?そやから、外にアオが居たんや。しかも隣やったら生垣の隙間から簡単に行き来できるしな。私とお兄ちゃんも小さい頃によぉやって、怒られたわ。  はっΣ(・□・;)  お父さんのくしゃみも、猫アレルギーのくしゃみとちゃうん?  あの時、アオが来たことに気付いてなかったけど、来てたんや。だからくしゃみが止まらんかったんや。  全ての謎が解けて、何だか試合後の爽快感みたいなものを感じたけれど、洗面所の方から聞こえるお父さんの癖のあるくしゃみで、棚ぼたの夢が打ち砕かれた苛立ちが湧き上がってきた。  「手ぇ、洗ってくる。」  そう言ってリビングを出ると洗面所でお父さんが顔を洗っている後ろに立つ。  「里奈、もしかして、座敷童はあの孫か?」  鏡越しに顔を拭きながら私と目を合わせる。  「うん。座敷童じゃ無かったわ。」  「そうか、でも、気を落とすな。里奈はお父さんの子や。きっと近いうちに『小っちゃいおっちゃん』とか、『悪戯好きの妖怪』とか、見えるようになるって。それまで、諦めんと信じてるんやで。」  そう言ってお父さんが肩に手を置いた。慰められているのか?バカにされているのか?はた又、将来的な大きな振りなのか?どれも腑に落ちないけど、肩に置かれた手にイラっと来た感情だけは鮮明に分かった。  「私、お父さんよりお母さんに似てるし、これからも何も見えんと思うわ!」  肩に置かれた手を、強めに振り払うと、お父さんを一瞥して自室へ向かった。  「里奈ぁ~。『捜索隊』は永遠に不滅やでぇ~。」  背中でお父さんの声を聞いた。    辞めさせてもらうわ!            
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