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父さんが家に帰らなくなったのは、いつ頃からだっただろう。
一緒に過ごした日を思い出せないくらい、もうずっとこんな生活を続けている。
「たまには帰ってきたら」と、私にしてはかなり勇気を振り絞って言ったこともある。だけど帰ってくるのはいつも同じで、ひどく味気ない答えだった。
――仕事が忙しいから、帰れないんだ。
思い出しただけで、怒りや呆れなどが混ざり合った感情が溢れ出してくる。
私だって、仕事の大切さくらい分かってる。私がこうして暮らしていけるのも、父さんが頑張ってくれているからだと理解してるつもりだ。
だけど私だって、たまには父さんと一緒にご飯を食べたりしたい。スマホの画面越しですら鬱陶しく感じる時もあるけど、寂しいという感情がないわけではないのに。
もやもやとした気分を抱えて歩いていると、何かが頭にぶつかってきた。
甲高い音が足元で響く。目を落としてみると、赤茶色の植木鉢が割れて足元に散乱していた。黒い土がアスファルトの上にまき散らされ、白い花が根をむき出しにして力なく横たわっている。
近くの家から落ちてきたんだろうかと思いつつ、私は止めていた足を前へと動かす。直後、不意に目の奥がむずむずとし始めて、私は再び足を止める。
今の感覚はなんだろう。何もおかしいことはないはずなのに、違和感があるのは何故だろう……。
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