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「な……!?」
ただならぬ雰囲気を感じて、私は走り出した。鞄の紐を固く握り締め、髪が乱れるのもお構いなしに来た道を引き返し駆け抜ける。
行く先にまた黒いものが現れて、一度も入ったことのない道へと飛び込んだ。そんなことを繰り返しているうちに、自分がどこを走っているのかも分からなくなる。
疲れて重くなった足が、うまく地面を蹴られずにもつれてしまった。身体がぐらりと傾き、アスファルトの上に叩きつけられる。
「痛っ……!」
びりびりとした感覚に顔を顰めながらも、私はどうにか身体を起こす。今まで感じたことのない刺激が、身体の奥にまで響いてくる――
違う、そんなはずはない。
頭の中に、今朝の出来事が蘇る。頭に落ちてきて、割れてしまった植木鉢が。普通なら怪我どころじゃ済まないはずなのに、痛みすら全く感じなかった。しかも私は、そのことに何の違和感も抱いていなかった……。
視界が薄暗くなり、私は顔を上げる。黒いものが蠢きながら、私の上に覆いかぶさろうとしていた。触手のようなものがコンクリートの塀に触れて、黒く細かい粒子を生み出している。粒子が消えた後には、そのにあったはずの塀が跡形もなく消え失せていた。
私も、あんな風に消されてしまう。逃げなきゃと思っているのに、身体が石のように動かない。黒い塊が巨大な手のように広がって、私を頭から喰らおうと迫ってくる。
刹那、真っ白な光が目の前で弾けた。
ばさりと布がはためく音がして、柔らかな風が私に降りかかる。流れる空気に乗って、どこか懐かしい匂いが鼻に触れる。
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