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未夢が語り終わる。
しぃん、と辺りが静まり返った気がした。
しかし耳に入る周りのクラスメイトの雑音は、絶え間無く入ってくる。
ということは、己たちの間に妙な空気が流れたことになるなと玲依は思った。
ふぅ、と息を着く声が正面から聞こえる。
「……それで、それがどうかしたのかしら?」
あわいは、机に肘をつきつつ、手の甲に頬を乗せた。
制服の下に着た黒いタートルネックの中へと指先を差し入れている。
少し冷たいような、突き放すような返答。
少々彼女の機嫌が悪くなったのかと玲依は錯覚した。
そんなあわいを気に止めず、未夢は話し続ける。
「その物語に出てきたのが、さっき言っていた夢燐寸ということなのです!」
その言葉にふぅん、と興味なさそうにあわいが呟いた。
「でも噂は所詮噂、でしょう?」
違うかしら。
そう問いかける。
彼女の冷たい態度にぷくり、と未夢は頬を膨らませた。
「酷いのです、あわいちゃん!最近一年生の間で流行ってる噂らしいのですよ。流行を馬鹿にするのは良くないのです!」
もしかしたら本当に願いが叶うかもしれないじゃないですか。
ぷんぷん、と言う効果音が聞こえてきそうだ。
絵に書いたような未夢の怒り方に玲依は、そう二人を見つめながら考えている。
あわいが申し訳無さそうに眉を下げて、フフと笑った。
「そうね、ごめんなさい。………でも、私そういうの信じないタチなの。目に見えるものしか信じないわ」
眉を下げて穏やかに笑う彼女の姿は少しだけ、どこか寂しそうだった。
「あわいちゃん……」
思わず、玲依の口から彼女の名前が零れ落ちる。
あわいは、はっとすればどうしたら良いのか分からず、指先と指先を合わせて弄り出した。
「ごめんなさい…変な空気にしちゃって」
その言葉に未夢が首を横に振る。
「大丈夫なのです!誰にでも信じる信じないはあるのですよ。それが、今回の話だったってだけなのです」
だから、気にしないでください。
箸を弁当箱の蓋の上に置き、あわいの手を取れば、未夢は彼女へと穏やかに微笑みかけた。
「未夢さん………」
彼女の優しさに感動したのか、あわいは未夢の手を優しく握り返した。
その様子を喧嘩にならなくてよかったと玲依が見つめている。
ふと、玲依が口を開いた。
「話戻すんだけどさ、なんでその噂が流行っているの?気になるんだけど」
その問いかけ。
よくぞ聞いてくれました、と未夢がきらきらと瞳を輝かせる。
玲依の方を向いた。
そして、玲依の方へと思わず指をかざす。
はしたないわよ、とあわいが注意をした。
「実は…!その願いを叶えてくれる夢燐寸が、本当にこの学園に存在するらしいのです!」
彼女がきらきらと目を輝かせた。
玲依が興味深そうに未夢を見つめている。
そんな未夢の反応に、あわいがはぁと溜息を着く。
「ねぇ、未夢さん。もしかして、この話の流れから推測するに…その夢燐寸というものを探しに行こうってことなのかしら?」
彼女の言葉。
それを聞けば、ぐいと勢いよく、首をあわいの方へと向けた。
そして、大きく大袈裟に頷いた。
「もちろんなのです!楽しそうじゃないですか。一緒にしませんか?二人とも」
お願いしますと懇願するように未夢は手と手を合わせる。
上目遣いであわいを見つめた。
その言葉に賛同するように玲依もあわいの方を向く。
「私も、気になる。二人にはまだ、言えないけど…叶えたい願いがあるんだよね」
駄目かな、そうあわいへと問いかけた。
薄い灰色の瞳が彼女を真剣な眼差しで見詰めている。
「………」
あわいは黙り込んだ。
そして、一つ溜息を吐けば、二人を見返す。
「私はパスよ。めんどくさい」
そう、光の灯っていない瞳で言い放った。
首を横に振る。
その瞬間、玲依達は思い出す。
彼女が極度な面倒くさがり屋だということを。
未夢がハッとして声を上げた。
「あっ!もしかして…!だからさっきから、渋っていたのです?あわいちゃん、ずっとめんどくさいことが起きるって思ってたんですね!」
ショックですと、頬に両手を当てた。
あわいは、ハハと笑いながらその言葉に頷く。
「ええ、本当にあるか分からないものを探すなんてめんどくさいもの………付き合ってられないわ。だから…」
そう言うとあわいは、食べ欠けの弁当箱の蓋をパタリ、と閉める。
丁寧に黒色のタータンチェックの包みに包み込めば、その場を立った。
「もし、そんな存在するかも分からないものを探すなら、二人でしてちょうだい。私は、めんどくさいことはしない主義なの」
ごめんなさいね。
そう、言い残して教室の出入口へと向かっていった。
彼女のポニーテールの髪が、早歩きをしているせいか、緩やかに靡いている。
そのポニーテールを波うつ海みたいだと、二人はぼんやりと見つめていた。
こそ、と未夢が玲依へと話しかける。
「あわいちゃん、何かあったんですかね…?」
その言葉に玲依はこてん、と首を傾げた。
「さぁ…?」
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