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木漏れ日の出会い
セミの声が響き渡る運動公園。その声に交じってジュニア野球チームの掛け声が聞こえる。
私はグラウンドを1周歩いてから、木漏れ日が差すベンチに腰掛けた。
里帰り出産で実家に帰ってきて2週間。気晴らしも兼ねて、父と母の日課である朝のウォーキングに同行している。
結婚2年目でやっと授かったお腹の子。嬉しさもあるが、正直不安の方が大きい。
こんな気持ちだからなのか、出産間近だからなのか……
普段は五月蝿いセミの声や、うだるような暑さも今は心地よく思えてしまう。
私は、ポシェットから小説を取りだし、続きを読み始めた。
青く澄んだ空に輝く白い雲、地上ではセミが鳴き、夏の風が木漏れ日を揺らす。
ページを捲り、話を進めていると……
ふとどこからか視線を感じた。
周りを見渡すが、特にこちらを気にしている人はいない。
気のせいかと思い、再び本に目をやるがやっぱり誰かに見られている気がする。
きょろきょろと辺りを見回し、私は本を横に置いて深呼吸をした。
「私を見ていたのは、あなただったのね」
と微笑む。
さらさらと木の葉の音とセミの声、そして野球の声援が調和するなか
目が合ったのは……
同じベンチの隣にいた “カマキリ“ だった。
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