木漏れ日の出会い

1/1
前へ
/2ページ
次へ

木漏れ日の出会い

セミの声が響き渡る運動公園。その声に交じってジュニア野球チームの掛け声が聞こえる。 私はグラウンドを1周歩いてから、木漏れ日が差すベンチに腰掛けた。 里帰り出産で実家に帰ってきて2週間。気晴らしも兼ねて、父と母の日課である朝のウォーキングに同行している。 結婚2年目でやっと授かったお腹の子。嬉しさもあるが、正直不安の方が大きい。 こんな気持ちだからなのか、出産間近だからなのか…… 普段は五月蝿いセミの声や、うだるような暑さも今は心地よく思えてしまう。 私は、ポシェットから小説を取りだし、続きを読み始めた。 青く澄んだ空に輝く白い雲、地上ではセミが鳴き、夏の風が木漏れ日を揺らす。 ページを捲り、話を進めていると…… ふとどこからか視線を感じた。 周りを見渡すが、特にこちらを気にしている人はいない。 気のせいかと思い、再び本に目をやるがやっぱり誰かに見られている気がする。 きょろきょろと辺りを見回し、私は本を横に置いて深呼吸をした。 「私を見ていたのは、あなただったのね」 と微笑む。 さらさらと木の葉の音とセミの声、そして野球の声援が調和するなか 目が合ったのは…… 同じベンチの隣にいた “カマキリ“ だった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加