花火×一温編

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花火×一温編

 備え付けの家具家電以外、荷物が一つもない部屋を出る。元々自分の荷物自体が少なかったから、さほどがらんとした印象はないけれど、これでこの部屋で過ごすのも最後かと思う。  そして、この制服に袖を通すのも。  管理人に部屋の鍵を返して、マンションの外に出ると、ヤンキー座りというらしい格好で赤銅色の髪の男がしゃがみ込んでいた。 「よう」 「おはよう、花火」  尖った犬歯を見せて「おはよう」と花火がいつもと変わらない笑顔を見せる。  ここ数ヶ月、受験生以外はまともに学校の授業は無かった。花火は制服よりも作業着を着ている時間の方が長かったのではないだろうか。 「荷物はもう全部送ったんだろ?」 「うん。段ボール二箱分だったし」 「ほんとに物少ねぇのな。俺なら漫画だけで三箱以上は埋まるぜ?」  学校に向かって歩き出す。これが最後の登校で、花火と歩く最後の──と考えれば考えるほど胸が苦しくなった。 「お前、今くだらないこと考えてるだろ」 「……くだらなくは、ない」  僕の顔を見ると、花火は声をあげて笑い、頭をくしゃくしゃに掻き回した。 「なに、して──」 「高校卒業したって、一温がちょっと遠くの大学に行ったって、俺と一温の関係が変わるわけじゃねえだろ。言ったじゃん、毎週二時間かけて会いに行くって」
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