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特に二度寝をする気にもなれず、早々に布団を畳んで部屋の隅に重ねて置いてから階段を下りる。
「一温、おはよう。早いな」
「おはようございます」
階下でトイレに行って顔を洗って歯を磨いてから居間に入ると、縁側で花火のお父さんが猫のチビに餌をあげているところだった。花火のお父さんは手招きをして、隣に座るように言うので近くにあった座布団を持って側に座る。
縁側から見える位置に僕と花火が作った花壇が見えた。オレンジと白のアネモネの花が、風に揺れている。
「立派に咲いたな」
「はい。花火が大事に世話してくれたので」
受験勉強で忙しくなり、なかなか訪問する機会が無くなってからも、こまめに雑草を抜いたり水やりをしてくれていた。おかげで、たくさんの綺麗な花が見られた。
餌を食べ終えて顔を洗うチビの頭を撫でた後、僕を見た花火のお父さんは優しく微笑んでいた。
「ありがとう」
急に前置きもなく飛び出した感謝の言葉に目を丸くしていると、少し恥ずかしそうに頬を掻いた。その仕草が花火とすごく似ていて温かな気持ちになる。
「花火のことだ。お前さんと出会ってから、随分変わったんだ」
そうなのだろうか。学校生活を共にしていても、授業はつまらなそうにしているし、僕以外の他の生徒と会話をすることはない。僕と昼休みを過ごすのは楽しいと言っていたけれど。
最近は学校もなかったから、花火は僕が受験勉強をしている間、自動車学校に通って車の免許を取ったと言っていた。勉強嫌いなので心配して、直前に僕が過去問を見て傾向をと対策を立ててあげたのだけど、そのおかげか学科の試験は何とかギリギリ合格できたと喜んでいた。勉強に対しての姿勢なら少しぐらい変わったかもしれない。
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