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二週間前のことだった。大学の合格通知が届いて、僕が正式にこの街を出ることが決まった時、花火と花火のお父さんが、合格祝いのパーティを開いてくれた。そこに僕の母も呼んでくれて、一緒に食卓を囲んだ。
花火は沢山の美味しいご飯──唐揚げやマヨネーズたっぷりのポテトサラダ、炒飯などの高カロリーな食べ物も解禁していたので、花火のお父さんも嬉しそうだった──を作ってくれた。
そして母がケーキを用意すると言っていたのだけれど、予想外にもアップルパイを一台作ってきたというのだ。
「本当は料理作るの得意なのよ。特にお菓子作りは昔から好きで、あなたが小さい頃はよく作って食べさせてたんだから」
全く知らなかった母のことを、最近会う度に知る。父に「無駄な主婦業をするくらいなら仕事をしろ」と言われて、母は料理を作ることも、育児に向かうこともやめたのだと少し淋しそうに語った。
母と向き合うようになって、思う。母と僕は似ている。好きな人のために頑張っているつもりで、空回りしてしまうところ、一つの方を向くと他が見えなくなるところ。
「久々に作ったから、美味しくできたか自信ないけれど、食べて」
母は八つに切り分けて、それぞれ一切れずつ取り分けた。
「ありがとう。頂きます」
一口食べると優しい甘い味が口の中に広がり、林檎のいい香りがする。外側のパイ生地もさくさくしていて食感もいい。
「一温の母ちゃん、これすっげえ美味いよ! ほんとに作ったの?」
「ふふ、ありがとう花火君。朝から頑張った甲斐があったわ」
花火はあっという間に平らげてしまい二切れ目に手を出す。花火のお父さんも感心しながら食べていた。僕は母さんが嬉しそうにしているのを見る。
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