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その日の夜、僕は花火の家に泊まることになっていた。明日は久しぶりに勉強をすることもない日曜で、花火と映画を観に行くことになっていたからだ。
「花火、もう寝た?」
風呂から上がって花火の部屋に行くと、二つの布団が離れて並んでいた。奥の布団でこちらに背を向けて花火が横になっているのが見える。
「……いや」
花火の声が返ってきて、心臓の音が高鳴る。
僕は空いている布団を引っ張って花火の布団とくっつけた。花火は背を向けたままだ。
「くっついて寝たら……一緒に寝たいって言ったら、嫌?」
一拍ほど間が空いて、「嫌じゃねえよ」とぶっきらぼうな返事が返ってくる。
布団に入って、花火の布団をめくり背後から手を入れた。最近は僕が身体を触っても、びくびくすることはほとんどない。だから、身体を密着させても、花火は身を縮こませたりしなかった。
「花火……キス、して欲しい。したい」
そう言うといつも、花火は「それだけで終わらないから駄目」と言って僕から離れてしまった。
けれど、今日は違った。僕の方をくるりと向いて、僕を抱き締めてくれた。
「……お前さぁ、いつもいつも誘惑してこられるこっちの身になれよな」
花火は深く溜息を吐いて僕から身体を離す。暗くてよく表情が分からないけれど、どことなく恥ずかしがっているように見える。
「嫌、だった……? ごめん」
「ちげーからッ! そうじゃなくて!」
苛立つように頭を掻いて、花火は大きな声を出してしまったからか、ふうと落ち着けるように息を吐いた。
「……色々我慢してんだよ、こっちは。俺だって、普通の高校生並の性欲くらいはあるんだからな」
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