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その言葉の意味を理解するのに、僕は少し時間を要した。だって、花火がそういうことを言うのは初めてだったし、一緒に初めて添い寝した日も、彼は余裕そうにしていて、身体にも何の反応も無かったから。
「……花火は、僕に欲情するの?」
「おまっ……直接的な言い方するなよっ」
「え、じゃあ……」
何か適切な言葉はないかと逡巡して、婉曲的な言い方を思い付く。
「僕をオカズにして自慰する?」
「もっと具体的に言わすなバカッ!」
僕にバカと言うのは花火くらいなものだが、コミュニケーションに関しては不得意なきらいがあるから、そういう意味ではバカと言えるのかも知れない。
「……する」
「え?」
「するだろ、普通にそれくらい」
暗くて見えないけれど、花火の顔は今、真っ赤になっているんじゃないだろうか。そうだ、きっと。想像したら、その表情はすごく愛おしいと思った。
「僕も、花火と初めて一緒に寝た日のことを思い出して……するよ」
花火はじっと僕を見詰めた後、頬に手を伸ばした。そしてそっと唇を寄せて、口付けた。
「……俺はお前のこと好きなんだからな。甘えられたら、甘やかしてやりたいんだよ、ホントは」
触れるだけのキスに、「まだ、もっと」と溢れてくる欲望を必死に堪える。花火の気持ちを大切にしたいから。自分がどうしたいかだけで、相手の気持ちを考えずに間違えるのは、もう嫌だ。
「でもさ、あの時……一温が傷付いた顔をしてたから……俺は、この先に進むのが怖い」
傷付いた顔──花火が、花火の中心が、全く反応しなかった時、僕は傷付いたんだろうか。そんな顔をしてたんだろうか。
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