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「お前を傷付けたくない……でも、お前は……望んでるんだろ?」
──ああ、そんな顔をしないで。
怯えた犬のような瞳で、失うことを恐れているのに、進めと言われる方へ歩み出そうとするような。僕を思い遣って、それゆえに傷付くかもしれないのに。
「いい、これ以上なんて……花火が辛いことは、したくない」
「……辛いとは言ってねーじゃん。今は無理ってだけで」
小さく溜息を吐いた後、花火は僕を抱き寄せた。その腕の力強さに、安心感を覚える。
「努力してみっから、今はこれで我慢して」
「……うん」
ずっとこの状態で我慢してるけど、なんて憎まれ口も言えないで、僕は花火の肩口に額を寄せた。
花火の身体は温かくて、波立つ感情もすぐに凪いでいく。愛しい人の寝息を聞きながら、次第に深い眠りに落ちていった。
朝になれば、寝返りを打って離れているかな、と思っていたけれど、ゆっくりと瞼を持ち上げて、最初に目に映ったのは花火の顔で。
「あ、起きた」
僕の寝顔を見ていたのだろうか。にっと犬歯を覗かせて「おはよ」と花火が笑った。
胸の奥がじんわりと温かくなる。これが幸福なのだと実感する。
僕は堪らない気分になって、思わず花火に口付けた。突然のことにびっくりしているのか、固まっている花火に更に身体を寄せて、何度も食むように唇を重ねる。身体が、熱を持ち始める。
太腿に何か、硬いものが当たる感触──。
「ちょっ、バカッ……!」
次の瞬間、花火が僕の肩を掴んで押し返し、身体を離す。花火の顔が真っ赤になっていて、自身の下半身に視線を向けている。
「……勃ってる」
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