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見上げると、まるで僕を安心させようとするように優しい笑顔を花火が向けていた。
「妄想だと上手くいくんだよ」
花火は、僕とのセックスを想像するのだろうか。どんな妄想なのだろう。どういうことをするのだろう。
「だから、一温は悪くない」
その言葉の裏に隠された思いに気付いて、花火に抱きついた。
「花火だって悪くない……!」
他人から与えられるものが恐怖や悲しみや苦痛だけだった幼児の頃に植え付けられたものを、これが安堵や喜びや快楽だと、どうすれば塗り替えることができるだろうか。
「好きだよ……大好き」
「はは、急にどうした」
花火は僕の背中を優しく撫でて、
「俺も一温が好きだぜ」
と呟くように、しかし噛み締めるように言う。
花火は僕が好きと言う度、切ない表情をする。「愛されること」を受け入れるのが、彼には最も難しいことなのだ。だから、僕の気持ちが言葉に乗って、花火の心に少しずつ深く根を張って、いつか花を咲かせるのを願う。
「あー、マジで便所行きたいんだけど……」
そうだった、と身体を離す。花火は「すまん」と僕の頭を撫でてから立ち上がり、襖を開けて廊下に出た。
「俺下で朝飯用意してっから、まだ寝てていいぜ。下りてくる時、布団だけ端に寄せといて」
「うん、分かった」
多分もう寝ないけど、と思いつつ階段を下りていく花火を見送る。本当は後ろにくっついて行きたかったのだけど自重した。そんな風にべたべたしたり、甘えたりするのは、きっと可愛い女の子でないと許されない。背が高くて女性的な華奢な肉体でもない僕のような男がするのは、気持ち悪いだろうし邪魔なだけだろうから。
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