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加藤真司。
優しく朗らか。ぽっちゃりとしていて温厚で一見昼行燈だが、なんでもそつなくこなす切れ者。まだ三十路だが、だいぶオッサン臭い。
一昨年、庶務課に異動してくる前は経理課にいて、物品管理を担う庶務第二係の晴夫とは入社の頃から顔見知りだ。上司というより話しやすい先輩という感じだ。お付き合いしている人がいない時期には月一くらいで飲みに行く。
先月も愚痴を聞いてもらっていた。
加藤の昼休みはいつも社食。同期たち、他課の係長たちと一緒のことが多い。
男女入り混じった年長者たちのテーブルに近寄るのは少し勇気が要った。
「加藤係長、隣、良いですか?」
幸いそのテーブルでは課長の隣だけが空いていた。
「どうしたんだい?」
「ええ、こないだの歓迎会の後なんですけど…」
「あ、足りなかった?」
「え?」
「カラオケ、俺が誘っておいて先に帰ったから少しお前に預けただろ?」
言われて清算の場をおぼろげに思い出した。
「ああ、いえ、それは十分でした。ごちそうさまでした」
晴夫はだいぶふらふらで大悟に肩をかりていた。
それで係長から預かったお金を大山崎に渡したのだ。多少の不足をそれぞれ一枚ずつ札を出して、お釣りを大山崎と高村で分けるように言った。
思い出せたのはその場面だけだ。
「係長が帰られたのって、いつ頃ですか?」
「午前様にならないようにって、10時過ぎだったかな」
通勤に一時間半かかるところに住んでいる加藤は、日付を跨ぐと妻に叱られると言って早めに帰るのが常だ。
それでも係長が帰ってからしばらくして終了15分前を伝えるインターホンが鳴り、すぐにお開きにしたはずだ。
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