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「気にすんな。俺、覚えてねえし」
大山崎はひどく申し訳なさそうに縮こまったままだ。
「ていうか、お前、帰るならメッセージとか送るとかできるだろ?」
「溝田主任には送りましたよ。ほら」
スマホを出して、溝田へのメッセージ画面を見せてくれた。
《ギリギリ終電間に合いそうなので、帰っていいですか?》
送信時間は日付が変わった直後くらいで、既読マークはついていなかった。
大山崎はコンビニから戻らずに帰った…。ため息を吐いた。
「ん? あれ、虹緒?」
溝田へのメッセージを開いて見せてくれる前に、見えたアイコンが気になった。虹の絵柄でひらがなでにじおと書かれていた。
「あ、はい、高村ちゃん、なんかすごく心配してくれて、ちゃんと送りとどけたのかってメッセージが…」
大山崎はスマホをそそくさと仕舞った。
「僕、相当酔っぱらっててさ、その、二人になんか、ヤバいこと話してない?」
高村とさほど親しいわけではない。それが心配しれくれたということは何か話したのかもしれないと思った。
大山崎は何かが癇に障ったのか眉間に皺を寄せた。
「わかりません。俺、ずっと歌ってたし――てか、俺しか歌ってなかったし――、濱津主任、ずっと加藤係長に泣きついてて、それを高村ちゃんがずっと側で聞いてて、係長が帰ってからは高村ちゃんに泣きついてましたよ」
恋愛対象が女性のはずの高村ちゃんがあの夜の男のはずはない。
しかし彼にもちゃんと謝っておかなければならないと思った。
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