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高村虹緒。元の名は渡部仁次。両親の離婚を機に改名したのだという。
同期のリーダー的存在で、入社式などのイベントごとは総務課に出向いて司会進行役を担うほどで、明朗活発。キリッとしたキャリアウーマン風のファッションは好感が持てる。
入社面接の時も女装で来たという強者で、去年はだいぶ騒ぎになったが今では誰も疑問を口にしない。
恋愛対象は女性だというが、今のところ彼女がいるとの話も聞かない。
休憩から戻ると各課のシフト表を確認しに行っていて不在だった。彼が席に戻ってきたのは定時のチャイムが鳴り終わった直後だった。
晴夫の仕事はキリが悪かったが、今日は集中力がダメそうだと諦めて帰り支度を始めたところだった。
「高村ちゃん、あの、こないだ…」
「あ、すぐ片づけますから、一緒に食事でもどうですか?」
晴夫の言葉を遮って、高村は颯爽と帰り支度をした。
彼と並んで歩くと不思議な感じだ。
男性としてはけして大きくないが、女性としたら大柄だ。
化粧が上手いのか、もとが綺麗なのか、美女にしか見えないのだが、異性の魅力を感じるかというと、男だとわかっているせいか全くそそられない。
隠れ家的な飲み屋の個室に入って、とりあえずビールを頼んだ。どう話を切り出そうかを思いながら、メニューを見ていると高村の方から聞いてきた。
「色々あったみたいですけど…、解決しましたか?」
「あ、ごめん。僕、覚えてないんだよね。どんな話してたか聞こうと思ってたんだ。その、心配かけたみたいで申し訳ない」
高村は驚きを隠せないあきれ顔でポカンと晴夫を見つめて、それから疑うような表情で聞いた。
「全く覚えてないんですか?」
「無責任だよね。ごめん」
そう謝ったところにビールとお通しが運ばれてきて、適当に目についたご飯ものを注文する。
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