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店員の姿が見えなくなると高村はため息を吐くように言った。
「何人かから恋愛相談を受けてるけど、自分の恋愛も解決できないのにいいんだろうかってことでしたけど…」
辻谷課長以外の恋愛相談も受けていたのだということか。
課長の件もちゃんと覚えていないのだ。それほど自分のことの方が大事だったのか。しかし、自分の恋愛事は三ヶ月前に終わっている。波奈子に未練はない。
晴夫の性癖を作り上げた瑠加に対しても今は特別な感情はない。
いったい誰のどんな相談を受ければ泣くほど自分のことが惨めになるのだろうか。
「それだけ? 誰の相談だったか、どんな相談だったか、言ってなかった?」
「いいえ。ただ、私にどんなセックスをするのか聞いてきました」
恥ずかしさで全身が熱くなった。
「え、失礼なこと聞いたね。ごめん」
女性が好きだという女装男子がどんな格好でどんなセックスをするか少し興味があった。女装のままなら瑠加みたいな感じだろうかと思ったのだ。しかし、そんな好奇心丸出しの失礼な質問をした自分が愚かすぎて恥ずかしい。
「覚えてません?」
高村は恐縮している晴夫を面白そうに見た。
「ごめん」
「普通のセックスですよ。シャワー浴びて、化粧落として、生まれたのままの自分で。そう言ったら泣いてました」
その答えを聞いて、なんで泣いたかうすぼんやり思い出した。
失礼にもほどがあるが、女の姿で瑠加のように女を抱く高村と、女装したままの高村が、ぺ二バンをつけた彼女に犯される様を想像したことがあった。
そんな答えを期待していたわけではなかったが、女らしい高村が、きちんと男らしいセックスをしているのが悔しかった。それで泣いたのだ。
晴夫は俯いて、続けるべき言葉が見つからず、黙った。
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