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食事が運ばれてきても、そのまま沈黙していた。
高村は先にいただきますと言って黙々とご飯を食べ始めた。
何の気負いもなさそうな高村の自然な表情を見て、晴夫も食べ始めた。
「僕が相談受けてたって話だけど…。一人は、僕の言葉でうまい方に事が運んだらしい。酔っ払いの無責任な言葉で、それで、良かったのかなってちょっと不安なんだけどね」
半分食べたところで、何か言うべきだと思って、微かに覚えている課長のことに触れてみた。
「大丈夫ですよ。酔っ払ってても濱津主任、人格、変わらないですから」
キリリとした笑顔は女性そのものだ。
この顔から変な想像をしてしまう自分が情けない。笑みを浮かべようとして顔が歪むのがわかる。
「なんか不満そうですね」
「不満って、そんなことないよ。そうだな。ちょっと思った以上に自分が記憶なくしてることに戸惑ってるというか…」
「じゃあ、男に迫られたらどうするかって私に聞いたことも忘れてます?」
「え、ごめん。僕、そんな失礼なこと…」
酔っ払っても人格変わらないと言われた後のこの暴露は衝撃だ。そんな気遣いのないことを聞くキャラだと認識されているのか。
頭を抱える。
「ふふ、ごめんなさい。嘘です。でも聞きたそうだったので、私が勝手に答えたんです。男に抱かれるのは無理だけど、ゲンキみたいな可愛い子なら抱けるかもって」
「え、イケる?」
「たぶん」
「ホントに?」
「イケません?」
冗談めかしているが迷いのない目。オスの目だ。
こいつはやっぱり男なんだと思った。そして脳裏に浮かぶ西村の姿は可愛い女の子のような感じがした。
「あー、僕、あいつにちんちんついてるのが想像できないかも」
「失礼ですね」
にやりと笑う高村は装いに反して全く女の子には見えなかった。
「高村ちゃんもぶっちゃけたね」
「今の流れ、ほとんどこの前と同じ会話でしたよ」
やっぱり酔っ払ってても人格変わってないんですね。と高村は笑った。
「勘弁してくれよ…」
「あの、私、思うんですよ。好きになる相手って、性別は関係ないんです。その人の人格に惚れるんです。でも、抱かれたいか抱きたいかの性癖は簡単に変わるもんじゃない。私は抱きたい人」
《濱津主任は?》
そんな質問が続くような気がしたが、高村は何も言わなかった。
食事を終えて、店を出るとそれぞれ帰路についた。
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