ゲンキ

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 どこで話したのだろう。思い返してみる。  二次会で課長と長々と話した後、大悟と少し話して、大山崎とも少し話したと思う。それから西村と話した。  まだそんなに酔っていなかったはずだが、何を話したのかは思い出せない。 「そっか、良かったな」  どんな相談で、どんなアドバイスをしたのか全く思い出せなかったが、そう言った。 『その、濱津主任の方はどうなりましたか?』 「…ごめん。僕も何か話した?」 『え、…覚えてないんですか?』 「実は、所々曖昧で…」 『…アブノーマルな彼女が欲しいとかなんとか。誰か気になっている人がいるのかと聞いたら、いるって言ってましたよ。だから、僕もアタック続けるから、濱津主任も頑張りましょうって…』 「…ごめん、たぶんそれ出任せだ。ゲンキが頑張れるように…」  半分嘘、半分本当。  瑠加のような性癖の彼女が欲しいと思っているのは本当だ。きっとそのことを言ったのだ。しかし、気になっている人がいるというのは出任せだったような気がする。  実際、波奈子と別れて以降、恋愛感情を掻き立てられるような出会いはない。 『…濱津主任は、本当はノーマルってことですか?』  西村の声が強張って聞こえた。 「え?」 『僕がゲイで、ノンケにモーションかけてるからって、僕に気を使って嘘吐いたってことですか?』  西村がゲイ。  ああ、そうだった。思い出した。  ノンケに告白して断られた。これからどうしたらいいのかわからないと嘆いていたのを、偉いと言った。 「…アブノーマルな性癖は、本当だよ。だからゲンキが告白したのって本当に偉いと思うよ。僕は打ち明けられない。好きな相手に、嫌われるかもしれないのに打ち明けるって、…勇気が要るよな」  晴夫はアブノーマルな性癖を言えないまま付き合って、それを明かして別れるの繰り返しだ。  西村は既に相手に自分の秘密を伝えたのだから、あとは本気で嫌われるか、相手が折れるまでアタックを続けたら良いのではないかと言ったのだ。 『…この前と、おんなじこと言ってます』  スピーカーの向こうでコロコロと笑うような声がする。 「付き合えることになってホントに良かったな。僕も、誰か、気になる人ができたら頑張るよ」  西村は疑ったことを詫び、それからもう一度お礼を言って、通話を終了した。  静かな部屋の中で、なにも考えられずにボーっと天井を見上げた。  玄関のドアの郵便受けがカタンと鳴った。
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