15人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな時間に郵便は来ない。
なんだろうと思って郵便受けを開くと、見たことない袋だったが、その大きさに心当たりがった。
慌ててドアを開けると何かにぶつかった。
ドアの外に、お隣さんが立っていた。
大きな紙袋をドアノブにかけようとしていたようだった。
「あ、ごめんなさい」
お隣さんが逃げ出そうとするのを手首を掴んで捕まえた。
「これ、うちのシーツ?」
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
痩せぎす。そんな印象しかない男が震えている。
「こんなとこで話すのもなんだから、入ってよ」
部屋に引き入れながら、こいつがあの夜の相手だったのかと思ってゾッとした。
吐き気がする。
あの夜の相手なら、部屋に上らせては危ないだろうか。
いや、こんなひ弱そうな男に、素面の自分が対抗できないはずがない。
身長は同じくらいだろうが、掴んだ手首がやけに細い。
ダイニングテーブルに座らせて、自分はリビングのソファーに座った。
あの夜、晴夫は自分から求めて、相手の名を呼んだ。しかし、この男の名前を思い出せない。表札で見たことがあるはずだ。
「どうして君がうちのシーツを持ってるのかな?」
若いが自分よりは年上に見える。確か近くのコンビニでバイトしていたはずだ。
そんなことを考えながら、男がしゃべりだすのを待った。
男はポケットから取り出したウエットティッシュで手を拭きだした。手と、晴夫が掴んだ手首と…。拭き終わると丁寧に畳んで、別のポケットから取り出したジップのついた袋にしまった。袋には同じような紙が何枚か入っていた。
その袋をポケットにしまうとやっと話し始めた。
「すみません。あの、土曜の朝早くにお宅のドアが開いていて…」
声をかけたが応えがなく、泥棒が入ったのではないか、殺人事件かも知れない。そんな想像をして入ってしまったのだという。
しかしベッドの上には気持ちよさそうに寝ている晴夫がいただけだった。
そしてこの男は情事の形跡が残るシーツと汚れたままの色々なものが散乱しているのが気になって、片づけたい衝動を抑えられなかった。
シーツを交換し、おもちゃも洗うために持って帰ったと説明した。
「鍵は?」
「靴箱の上に置いてあったので、閉めて帰りました」
最初のコメントを投稿しよう!