7人の男あり

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 ドアを開けると、髪がびしょ濡れの大山崎が立っていた。 「雨、降ってたのか?」 「違います。公園で、水を飲もうと思ったら失敗して…」  しょげている大山崎を見て思わず笑った。 「ドジだな」  シャツも濡れて、ジーパンは裾から滴が落ちてる。 「上がれよ。って、そんなんじゃ部屋が濡れちまうな。タオルもってくるからちょっと待ってろ」  未開封のイベントTシャツとタオルを持ってきて渡した。  大山崎はタオルで頭を拭いた。 「濱津さんその、俺…」  受け取ったTシャツの袋をどうしようかと迷っている風だった。 「ジーパンも脱げよ」  晴夫はそう言ってリビングに戻った。  しばらくして大山崎はタオルと脱いだシャツとズボンを持って、所在なさげに入ってきた。 「そっちに洗濯機があるから放り込んで、明日、洗ったらいい」 「いえ、俺、すぐに帰ります」 「終電終わってるのに? その恰好で?」  一旦、洗面所に消えて戻ってくる。  まだ湿っている髪が額に張り付いていて、濡れた犬のようだった。  イベントTのダサいロゴと、裾からはみ出したパンツの柄が不釣り合いでおかしい。  むき出しの筋肉質な毛深い脚を見て、晴夫はその脚に見覚えがあると思った。 「すみませんでした!」  大山崎はフローリングに額をつけて土下座した。  晴夫はそれを見下ろして、首を傾げた。  お隣さんから、大山崎が駅とは逆の方向に行ったと聞いて、あの夜の相手を確信していた。  それが分かった時には衝撃だったが、怒りは感じなかった。  知りたいのはどうして黙っていたのかということだけだった。 「僕が覚えてないと思って、黙っているつもりだった?」 「言うべきか迷いました。覚えていないみたいだったので…なかったことにした方が濱津主任のためかもしれないとも思って…」 「…僕が誘ったんじゃないの?」  無理やりだったはずはない。  夜の営みのための一式がどこに隠してあるか、大山崎は知らなかったはずだ。勝手に探すようなタイプでもない。  それに晴夫は刺激に目が覚めた時、自分が誘ったと思っていた。  大山崎の前に立ち、足先をその顔の下に差し込んだ。
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