カタキあり

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 少しして顔を上げた。  怯え切った顔だ。真っ赤になった目で晴夫を見上げていた。 「…濱津主任のこと、ずっと好きでした」  苦しそうに言った。それから自分の股間を見て、それからまた両手をついて頭を下げた。 「でも、こういう意味だと思ってなかった…。本当に、すみませんでした!」  晴夫はイライラしてきた。 「僕の好みはうじうじしてる奴じゃない。瑠加みたいに自分から乗っかってくるようなヤツだよ」  謝るだけならもう帰ってくれと思った。いや、もう顔も見たくない。抱かれたいと思ってしまう自分を消したかった。 「お前、僕の前から永遠に消えろ」  この先、大山崎を見れば、こうして自分は欲望に苛まれるのだろうと思えて怖くなって、その気持ちを振り払うように怒鳴った。  大山崎を蹴って、転がした。  捲れたTシャツの下で、シミを作ったパンツがテントを立てていた。  なぜ大山崎はこの状況で高ぶったままなのだろう。SMの気でもあるのだろうか。しかし晴夫は大山崎を泣かせたいわけじゃない。  苛めたって楽しくない。辛い。泣くな…。そう思うのに口からは蔑む言葉が出る。 「苛まれてこんなおったててる奴に僕は欲情しない」  嘘だ。今、大山崎が豹変すれば自分は喜んで身体を開くだろう。  反撃してこい! そうしたら抱かれてやる!  そう言ってしまいたい気持ちと、命令しなければならない関係は嫌だという気持ちが錯綜して泣きたくなってきた。 「おったてたまんま帰れ」 「あ、やめ…」  再び大山崎の下半身を強く踏んだ。  大山崎は大粒の涙をこぼし、晴夫の足首を掴んだ。 「警察に通報しといてやる! そうすれば二度と僕の前に現れずに済むだろ」  晴夫を見上げ、唇が震えている。 「会社には代わりに辞表書いて出しといてやる。取り調べでは無職って言えよ。会社に迷惑かけんな」  立ち上がろうとする気配を見せたので、足を離した。  大山崎は大きく息をついてから、しゃんと立った。 「俺、貴方に嫌われたら職場にいられません。だから辞表は今、書いて預けます」  大山崎は頭をさげた。 「でも、その、最後なら…。我がまま言わせてもらってもいいですか?」 「ペンと紙ならあるぞ」  晴夫は大山崎が何か決心した気配に、少し恐れを感じで背を向けた。  ダイニングテーブルを促して、筆記用具を探してくる。  戻ってくると、大山崎は前を隠すようにシャツを引っ張って立っていた。 「…ルカって、彼氏ですか?」  テーブルに向かうことなく聞いてきた。
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