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「は? 元カノだよ」
「え、じゃあ、濱津主任が怒ってるのって…、彼氏じゃないのにしたことじゃないんですか?」
「怒ってる? 俺が怒ってるのは抱かれたことじゃない。お前が何も言わずに帰ったことだよ!」
大山崎は混乱してるのか視線を彷徨わせた。
「えっと、え、彼女?に抱かれているつもりだった?」
「とっくに別れてるんだ。そんなはずあるか」
「でも、イクときルカって」
「今まで俺の後ろで腰振ってたのは瑠加だけだったんだよ。だから…たぶん…無意識に…」
少しずつ声が小さくなる。
「女性なのに?」
「ぺ二バンでな。…なんだよ知らないのか?」
掠れる声でどんな形状のものか説明してやった。
女に抱かれている晴夫を想像したのだろうか、鼻の穴を一瞬膨らませたように見えた。
「男の人としたこと、なかった?んですか?」
「そうだよ。僕はゲイじゃない。さあ、辞表、早く書けよ」
大山崎は大きく息をすすり上げて、泣くのをこらえるように息を整えると晴夫の方にしっかりと向き直った。
「その前に、ハグさせてください。それ以上のことはしませんから」
「それ以上のことしたくないのかよ」
その問いにぼそぼそと「したいですけど」とかなんとか言ったがはっきりしなかった。しかし続けた言葉は明瞭だった。
「濱津主任の嫌がること、したくありません」
赤いが迷いのない真っ直ぐな目。まるで死ぬ覚悟でもできたような顔だ。
「嫌じゃない」
唇が震えた。
嫌だった。大山崎を失うのは嫌だ。
「え?」
「嫌じゃない」
晴夫が小さくだが腕を広げて見せるとすぐに抱き締められた。
ふわっと包み込まれる優しいハグ。並んだ頭は遠慮がちに外に傾けられた。体温の高さにドキドキする。
「ハグってのはもっとギュッとするもんだろ」
晴夫は大山崎の腰に手をまわしてぐっと引き寄せた。下腹部に固いものが当たる。大山崎は慌てて腰を引いた。
「あ、お、俺、消えた方がいいんですよね?」
「…隣の席にイロがいたら四六時中身体が疼くだろ…」
もう一度引き寄せた腰に身体を摺り寄せた。
大山崎の肩に顔をうずめた。体温。そしてこの匂い。嫌いじゃない。
ホッとする匂いだと思った。そして晴夫はあの夜、大山崎だからしたのだろうと思った。
「はなしてください…我慢できなくなる…」
そう言いながら大山崎は腕に力を込めた。
大山崎は少し顔を離して、晴夫の表情を観察して、それからフッと笑った。
「嫌です。俺、濱津主任の部下でいたいです」
そう言って、晴夫から離れた。それからダサいTシャツを脱いだ。
逞しい胸板とへその下からパンツの中へとのびている黒い体毛に晴夫は顔を顰めた。
「着痩せしてるんだな…」
「服、自分で脱いでくれますか?」
「よくこの流れでしいたいとか思うよな。さっきまでめそめそしてたくせに」
急に態度の変わった大山崎に戸惑いながらも、鼻を鳴らして甘えてしまう。
「お前に惚れたりしない。それでもいいのかよ」
奥の疼きを何とかしたいだけだ。
「濱津主任が嫌じゃないんなら」
晴夫は大山崎の手を掴んで、寝室へと導いた。夜の一式を用意して向き直ると押し倒される。
「男相手じゃたたないからな。期待するなよ」
背を向けたまま自らズボンを脱ぎ、お尻を突き出してやる。背後で大山崎が笑った。
「主任のそういう素直じゃない物言い、好きです」
「好きとかいうな。身体が疼いてるだけなんだ」
「濱津主任?」
大山崎が不安そうにのぞき込んできた。
晴夫は枕を引き寄せて、半分顔を隠して大山崎を見た。
「するときだけ、ハルって呼べ」
「ハル…さん?」
「さん付けとかやめろ」
大山崎は嬉しそうに破顔した。
「ハル、好き」
首筋に熱い唇が触れて、晴夫は期待のため息をついた。
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