15人が本棚に入れています
本棚に追加
女装が好きなだけで、恋愛対象は女ですと、去年の歓迎会で言っていた。
あれは嘘だったのだろうか。
後輩として、人間として彼のことは嫌いではない。彼が相手だったら…、瑠加に抱かれたみたいでいいのだが…。しかし晴夫は高村に性的魅力を感じない。それに綺麗に女装する高村がスネ毛ボーボーなはずもない。
鈴木からレモンのポーションを受け取って礼を言うと晴夫はデスクに向かい、蓋を開けて紅茶にレモン汁を入れた。
「鈴木ちゃん! 僕には砂糖とミルクくれない?!」
カップを配り終えてデスクにつこうとした西村が手を上げて呼んだ。
「あ、すみません。いつもいくつですか?」
「いつもは入れない。なんかさ、今日は甘いもの飲みたい気分なんだよね!」
小柄で小動物みたいによく動く西村は元希という名前がゲンキとも読めることから、ゲンキと呼ばれている。
BLだったら男にモテるのではないかと思える可愛らしさだ。
まさかこいつだろうか。しかし、男を襲う側にはとても見えない。
「やっべ、ひっかかったー」
ミルクのポーションの蓋を勢いよく開けて、顔に白い液体がかかって悲鳴を上げる。
晴夫の隣にいた大山崎が苦笑してウェットティッシュの箱を差し出した。
可愛い顔で困った表情の西村が、なんだか卑猥な生き物に見えた。晴夫は西村から目を逸らし、大山崎の方を向いて紅茶を一口飲んだ。
普通だ。
大騒ぎな西村も静かな大山崎も。いつもと変わらない。
大山崎は晴夫が主任になってはじめて入ってきた後輩で、晴夫によくなついてくる感じは西村とそう変わらない。
細身で、加藤係長ばりに人畜無害な気配の草食系。
真面目を絵にかいたような雰囲気で、浮いた話は聞かない。
「ゲンキ~、エレベーターホールまで声が聞こえてたわよ~」
第二係長の坂上が笑いながら言い、一緒に辻谷課長が入ってきて、課員一同、一斉に挨拶をする。
一見夫婦にも見える二人だが、坂上係長は独身主義。課長との噂はない。
スラっとイケメンの課長が晴夫を見て、にっこり笑った。
晴夫は心臓がギュッと握りしめられたような気がした。
あの日、実際に行ったのはバニーガールのいるガールズバーで、晴夫は前半、辻谷課長とカウンターで差しで飲んでいた。
ずっと話をしていたという記憶はあるが、何を話していたのか全く覚えていない。
店を出た時も、課長と話していた。
怪しいのは課長か…。
ロマンスグレーのイケオジだ。
昨年、色々あって離婚していることもあって、狙っている女子は多い。男の晴夫からしてもかっこいいのだ。
最初のコメントを投稿しよう!