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あの夜
自分の声で我に返った。
四つん這いになった目の前の壁は見慣れた自分の部屋。
後ろから突き上げられる刺激に、また声が出た。
目は覚めたのに快感に頭は朦朧として、考えがまとまらない。
(なんで、なんで? 瑠加? いや、僕、今、違う名前を言った…)
この感覚は大学時代から付き合っていた彼女、瑠加に教え込まれた快感。
瑠加と別れて3年。ずっとこの刺激を求めていた。
だからコイツを誘ったのだ。
コイツ? コイツは誰だ?
疑問が渦巻く。
俯けば、腰のあたりに膝を立てた右足の、すね毛の濃い脚だけがわずかに視界に入る。もっと大きく振り返れば相手の顔を確認できるのに、見れない。
男の脚だ。
「さ、さっきのとこ、もっと、奥、あっ」
再び強く突き上げられて、背中をそらせた。
相手の動きに合わせてイイところに刺激が来るように身体を前後させる。
「イイ、くる、くる…そこ、もっと…」
自分で誘ったのだ。これが欲しかった。だから…。
誰を?
再び顔を俯けて後ろを見る。腰を押さえる手には見覚えがあった。
アイツの手だ。
アイツって誰だ?
どうでもいい。今はどうでもいい。
自分がコイツが良いと思って、コイツを欲しいと意識して誘ったのだ。
コトが済んでから確かめればいい。
もっともっとと求める晴夫の言葉に合わせるように、何度も強く突き上げられた。
高まる絶頂への波と共に声が大きくなる。
誰かの名前を叫んで、意識を快感の海に投げ出した…。
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