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「成長したな、和泉」
ベッドの中、一戦交えた後の気怠い空気の中で彼――高倉弘がタバコをふかしながら言った。
「中村さんも言ってたよ、ウチの連中がきっちり動くのは和泉の指示が的確だからだろうってな」
さんざん啼かされた後だから、和泉の脱力感は相当なもので。
高倉の腕の中で半分寝てしまいそうな頭を何とか現実に止めようと、和泉は彼のジッポライターを弄んでいた。
「しかも、俺にまで注意を与えてくれるなんざ、大したもんだ」
“現場内は禁煙です!”
はっきりと言って高倉を睨み付けたのは、ほんの少し八つ当たりも入っていたのだが。
しかし、高倉は苦笑して携帯灰皿に殆ど吸っていないその一本をきっちり押し入れてくれた。
「あれは基本的な規則ですから。ウチが吸ってたらおじさんたちに示しが付かないじゃないですか」
もそもそと頭の位置を変えながら言う。
高倉の腕には理想的な筋肉が綺麗に付いていて、場所によっては少し首が痛い。
「だから、くすぐったいよ、和泉」
「ここ、痛い」
上目遣いに訴える和泉がかわいくて。
滅多にこんな甘えた表情しないから、高倉はタバコを灰皿に投げて和泉に口付けた。
「……やだ、タバコ臭い」
高倉のキスは濃厚に和泉の口腔内を浸食し、気持ち総てを“ソノコト”に向けてしまう。
それが、和泉は少し悔しくて、掌で僅かばかりの抵抗をした。
「……ふうっ……ん」
口唇が離れて、自分の口から出た吐息の甘さに酔ってしまう。
これだから、イヤになる。
自分で自分が、イヤになる。
どんなに拗ねても、どんなに意地を張っても、どんなに怒っても、結局このキスによって全部がこの人に流されてしまうのだから。
この気持ちが“好き”とか“愛してる”とか、そんなあまやかな言葉で表せるものだとは思えない。
一方通行の感情を、彼がどんな気持ちで受け止めているかわかるから、だからこれは“恋”じゃないし“恋愛”なんかじゃない。
彼の“嫉妬”心なんてただの“独占欲”だけで、自分のこの気持ちなんて全然報われてなんかない。
全部わかっているのに、やめられない。
理由は、そう。
このキス。
この躰。
この温もり。
この優しさ。
……この人、総て。
“不倫”という醜い単語で示されるこの“麻薬”をやめられない自分が、イヤになる。
「あ……ヤだ……んっ」
敏感な乳首を舌で転がされて、和泉は“弘”という名のクスリにまた身を委ねたのだった。
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