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「和泉……どうかしたのか?」
乱れた息を整えた後、彼が徐にそう尋ねた。
いつもは、不自然なセックスだから、と弘はこれ以上ないくらい優しく和泉を扱う。
そんな普段のセックスからは考えられないような、快感も痛みを伴うような激しさを和泉は求めた。
「……たまには、いいじゃん」
力の入らない躰を無理に動かさず、ベッドに伏せて目を逸らしたまま、答える。
和泉のそんな態度も、ただの疲労だと思った彼は優しく和泉の頭を撫でながら自分の方へと抱き寄せた。
「まあ、確かにね。でも……キツかっただろう?」
優しい問いかけ。
けれど和泉は鼻の奥で微かにだけ笑って、されるがままにいつもの定位置へと頭を置いた。
「和泉……」
「弘、おめでと」
優しくなんて呼ばれたくなかった。
だから、気が付いたらそう言っていた。
本当は彼からの報告の後に伝えたかったのだけれど。
「え?」
「水津穂さん。二人目、できたんでしょ?」
和泉のその言葉に彼は勢いよく体を起こした。
「な…なんで?」
「由佳里ねーさんに聞いた」
いつぞやの逆パターンかな、なんて和泉は暢気に考えながら答える。
「…………」
「だからさ、おめでと。で……今日、最後にしようよ」
「い……ずみ」
「これ以上続けていられないよ。いいでしょ? オレから言い出した関係だし、オレが止めよ、ってゆーんだからさ」
淡々と、告げる。
本当はそんなこと考えていなかった。
彼にはもう既に子供が一人いるわけだし、もともと誰にも知られてはいけない関係なのは最初からわかっていることなのだけど。
でも、これがいいタイミングなんだ、と和泉は思った。
「水津穂さん、大事にしてあげなよ。これから、でしょ? たっくんだっているんだし、オレに構ってるヒマなんて、ないんじゃないの?」
出てくる言葉は総て、自分の意志なんて無関係な所から発せられる。
本当はもっともっと以前から解消すべき関係だった。
でも、彼を想う気持ちが一緒にいればいるほどに大きくなって、自分からそうすることなんて絶対にできなくなっていた。
「和泉……」
だから、今回のこの件は丁度いいのだ。
解消すべきタイミングとして、きっと、丁度いいのだ。
「和泉」
彼の声が少し掠れている。
感情が乱れていることが、はっきりわかる。
もう、それだけで十分だった。
自分のために感情を乱してくれる。
その事実だけで十分だった。
「もう、止めよう。弘……高倉さん。もう、二度とこんな風には逢わないよ」
哀しいくらい冷静に、そう言った。
「和泉……」
「今まで、ありがとう。すごく、好きだったよ、高倉さんのコト。だから、さ」
顔を、上げる。
「ごめんけど、ほんの少しだけ、泣かせてよ」
一人で、泣かせて欲しい。
和泉は微かに笑いながらそう言うと、そっと彼に背を向けた。
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