秘密の関係

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しばらく座って待っていると、ビーフシチューが出て来た。 私の前にスプーンを置いてお皿を置き、彼は向かい側に座る。 「あれ? 遥希は食べないの?」 「うん、俺はいい。海、食べていいよ」 「うん、いただきます」 スプーンですくって口に入れると、やっぱり美味しい。 「ふふっ……んっ……ふふっ……」 美味しくて微笑んでしまう。 「美味しい?」 彼がテーブルに両手で頬杖をつきながら訊く。 「うんっ、美味しい」 「そうか。なら、持って帰るといい。帰り、タッパーに詰めてやるよ」 「えっ、いいの? 遥希は食べないの?」 「俺はいいって言ったろ。海の為に作ったんだから」 「遥希……」 「海、俺達の事どうする? このまま社内で内緒にしとくか? それとも…」 「遥希はいいの? 私、仕事の時の姿は変えないよ。あの姿のままでもいいなら、公表してもいいけど……」 「ふふっ、俺は別にあの姿でもいいよ。海は海だから。てか、あの姿で好きになったし。あ、でも……」 「ん?」 「待てよ……いや、やっぱりしばらく公表するのは止めよう」 「どうして?」 「公表して、所長に海と離されるような気がする。今まで一緒に出来ていた事が、出来なくなりそう…」 「あ、確かにそれはあるかも知れない」 「しばらく、様子を見よう」 「分かった。じゃ、まだしばらくは秘密の関係だね」 「ふっ、そうだな。じゃ…」 彼が立ち上がり、クローゼットから何か持って来た。 「海、これを……」 差し出したのは、鍵。 「えっ……?」 「ここの鍵。海にも渡しておくよ。いつでも来たらいい」 頷いて、鍵を受け取った。
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