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どのくらい煮込んだんだろう。
1時間や2時間煮込んだぐらいじゃ、このお肉の柔らかさにはならない。
「美味しっ……これ、いつから作ってたの?」
「昨日の晩からじっくり煮込んで、仕事終わって帰って来てから今まで」
「えっ……昨日から?」
「元々、今日家に誘うつもりだったからな」
「わ、私が来なかったらどうしてたの?」
「ん? 拉致ってでもつれて来てた」
そう言って口角を一度上げ、ニヤリと笑った。
「らちっ……って犯罪でしょ!」
「ふっ、冗談に決まってるだろっ。海が来なかったら、1人で食べるだけさ」
「……こんなに美味しいのに……1人で食べるなんて、勿体ない…」
テーブルの上のビーフシチューを見つめて言った。
「ふっ、ありがと。海が来てくれてよかったよ」
さっきの悪魔のような笑みとは違う、天使のような優しい微笑み。
時々見せるこの優しい微笑みに癒され、惹かれる私がいる。
彼が言っていたように、トロトロの半熟卵が乗ったオムライスをひとくち大にスプーンで切り、ビーフシチューをすくって、オムライスにかけ食べてみる。
ビーフシチューと半熟卵が合わさって卵に深みが加わり、バターライスがあることで、またビーフシチューが変化し、1つのビーフシチューがいくつもの顔をみせる。
「うーん、美味しいぃ……」
自然と笑みが零れ、ニヤケてしまう。
「ふふっ、ほんといい顔するな。オーロラの話をした時も、その顔で笑ったよな」
「えっ……」
自分では気づいていなかった。
「その顔を見て、海の事が気になり出して、でもずっと俺の事避けてるような感じで、イライラして……」
避けていたのは間違いない。
相当、イライラしていただろう。
「我慢できなくなって、素が出た。職場では営業っていうのもあって、温厚な仮面をつけてるが、本当の俺はこっちだ。好きになった女は拉致ってでもつれて来ようと考えるような男だ」
「拉致は冗談でしょ……さっきそう言って…」
口角を上げてフッと笑う。
(もしかして、ほんとに考えていたの……)
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