三、御原高校水泳部

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三、御原高校水泳部

 一年生の駿たちはニ、三年と対面するような形で座る。横に並んでいる一年生の列は先輩たちに比べて長い。まだ体験入部期間だから少し多くても不思議ではないか。  それよりも、と前列の三年生を一人ずつ見ていく。で、でけー、三年。中学の時も先輩は大きく見えたけど、高校の三年生は大きいうえに凄みがある。 三年生の貫禄に圧倒されている中、中央にいた男性が一歩前に出てきた。不規則な方向にカールしている天然パーマと首から下の広い体とミスマッチな童顔が特徴的で、先輩の中では比較的接しやすそうな印象だ。 「主将の山口祐です。今日は来てくれてありがとうー」  祐は印象通り人懐っこい犬のように微笑する。しかし、まさかこの人が主将とは正直予想していなかった。 「祐、最初はきちんと挨拶しとけよ」と左隣にいた男性が祐の脇腹を小突いて一歩前に出る。短髪で剣山のような頭に、切れ長の目つきでスナイパーのように一年を見ている。何も悪いことはしていないのに緊張して、勝手に背筋がまっすぐになる。  男性は深く一礼してから口を開く。 「副主将の高村航平です。専門は個人メドレー。私たち御原高校水泳部は――」 「航平固いよ、固すぎるよ。それじゃあみんな航平のこと怖くて近寄ってくれないって。ただでさえおっかないのに」  祐の右隣にいた身長の低い先輩が割って話を中断させる。後ろの二年生の何人かが口元を押さえて笑うのをこらえているのが見えた。 「俺は川上廉太郎。専門は中距離自由形で役職は無し! 名前は長いから廉先輩でも廉さんでもいいよ」」  いちにーさん、と一年生を一人ずつ数えた廉太郎は祐と航平の肩を掴む。 「八人だよ八人! 三学年で最多の人数! とうとうここまで来たんだな」  興奮して跳ね上がる廉太郎はさぞかしうれしそうだ。しかし、その様子は駿を含めてまだ水泳部に入るか悩んでいる人からしたらとてつもなくプレッシャーだ。  三人とも性格がバラバラで、駿は三人を見て小学校の時飽きるほど読んだ『ズッコケ三人組』を想像した。  三人が騒いでいるのを無視して、上級生の自己紹介が続いていく。三年生は先ほど紹介した三人と女性が二人。そして二年生も五人だった。  二年生の自己紹介も終わり、祐が両手の人差し指を出して「どちらにしようかな」と一年の両端を交互に差していく。 「天の神様の言う通り。じゃあ、次は一年生の番。右端の君からどうぞ」  右端って、駿は自分の顔を指さす。祐は笑顔で頷き、全員の視線が集まる。一気に喉が締め付けられ、心臓が激しく脈打つ。あー、どうして端になんか座ったんだ。 「またまた災難やな」  亮太が嬉しそうに耳打ちしてくるのが腹立たしいが、今蹴り倒すことはできない。心の中で苦言を吐いて立ち上がる。  隣を見れば楽しそうに待っている栞と目が合った。駿は慌てて目を逸らす。  余計に緊張が高まってしまった。
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