五、リレー

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 さらに焦る駿はがむしゃらに手足を動かして前に進む。泳ぐにつれて手足は動かなくなり、肺が張り裂けそうに痛み出す。呼吸をしたいのになかなか吸えない。  もはや溺れかけながらなんとか壁に手が触れると、頭上から三泳の小川が飛ぶのが見えた。  泳ぎ終わったが体がぐったりしてプールから上がれない。呼吸は激しく何度も酸素を取り入れているはずなのに肺にも頭にも酸素が行き渡らない。もうくたくただ。上では皆が後半戦に熱狂しているが駿にはそこに加わる気力も体力もからきしない。栞も亮太もすでにプールから上がって先輩たちと一緒に声援を送っている。あいつら、どこにそんな体力があるんだよ。  壁に体を預けていると清原がのぞいてきた。 「大丈夫?」 「だ、だい……大丈夫です」 「とりあえずここは危ないけん隣のコースに移っとき」  見ればすでにアンカーが浮き上がっており、こちらに猛進していた。急いでコースロープをくぐって隣のコースに移動する。そして顔を出した途端にものすごい勢いの波浪に体は流される。溺れかけながらリレーの行われている方を見ると、栞のいるチームのアンカーが拳を掲げて上にいるチームメイトとハイタッチを交わしていた。奥の二コースにいるアンカーは僅差で敗れたのか「ごめん」と両手を合わせていた。  三チームが大熱狂に包まれている最中、少し遅れて駿のチームのアンカーである、二年の先輩がタッチした。 「あー、疲れたあ」と顔を上げるなり体をプールに預けるようにあお向けになる先輩。本当に疲れているようで肩や胸が激しく上下している。 「うちらだけ蚊帳の外でしたね」と向かい側から戻ってきた小川が駿をちらりと見て言う。反論の余地もない、今回の敗因はすべて自分のせいだ。申し訳なく思い、月がうっすらと光る空を見上げている先輩のもとに近づく。
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