プロローグ

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プロローグ

   テイク・ユア・マークス。日本語では「位置について」となる。位置につかないとスタートは切れない。ましてやその先にあるものを掴むことさえも……。  五千人を超える人たちが静かにある一点を見つめている。固唾を飲む音さえも聞こえてしまいそうなくらい会場は静寂に包まれていた。その視線の先にいるのはたったの八人。その一人である辻林駿は水面に映る自分と対面している。心臓は少しだけ速く動いているが、かえって心地がいい。ようやく位置につけた。  やっと、ここまで来た。 「大丈夫、俺はできる」  額から雫が一つ垂れたと同時に右側から甲高い電子音と眩い閃光が走る。その瞬間、八人が一斉に宙へと舞い、森閑としていた会場が着火したようにどっと熱を帯びる。  しかし、駿たち八人は再び静かな水の世界へと入っていく。誰にも邪魔されない八人だけの世界だ。  これは生涯忘れることのできない、三年間の物語だ。
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