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「長野なんて行く機会なかったんやけん仕方なかろ?」
あーあ、と二人は呆れた顔をする。さっきから「あー」とか「えー」とか、まともな会話はできないのか、と心の内でしかツッコめない自分も彼女たちのことは言えない。
「でも、なんでその子の中学校が分かったん。名前だけじゃ無理やろ」
「彼女は全国大会にも出る選手やったん」
やからさ、と急に亮太が教卓に乗って俺の肩に腕を回す。
「駿は水泳で全国大会に出て、その子に会いに行くんよな?」
「いつからそんな話になってるん?」
「今」と言った亮太は冗談とは思えない満面の笑みを浮かべている。全国大会なんて無理に決まっている。水泳よりも力を入れていたサッカーですら全国大会に行ったことがないのに、遊び半分で続けていた水泳ではどう努力したって届くとは思えない。
断ろうと腕を振りほどいたと同時に廊下から水川先生の怒声が響く。
「こら佐藤、あんたどこに乗っとんの!」
「すいません!」と逃げる亮太に先生は鬼の形相で追いかける。まさに二人が教室内で鬼ごっこをしているのを見て、女子二人が呆れていた。
「このクラスの問題児は佐藤君たちやね」
二人は気が済んだようで後ろへ去っていく。
なぜ『佐藤君たち』なんだ。質問しようとしたが、既に二人は教室から出ていこうとしていた。
駿は二人の後姿を呆然と見ることしかできなかった。
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