16人が本棚に入れています
本棚に追加
太陽が火照りだしてどこかでカラスの声がする夕刻、ようやく本日最後のチャイムが鳴り響いた。
教室内の気が緩んだと思ったら、途端に廊下が騒がしくなる。廊下を見ればすでにどこかへ走り去る生徒たちがいた。
やることもないし帰ろうと鞄に教科書類を入れて席を立つ。
「辻林、また明日な」
「おう」
クラスメイトとあいさつを交わしながら引手に指を入れたところで亮太がドアの向こう側にいることに気づいた。
ニヤついている笑みを見る限り悪いことが起こりそうだ。駿は引き手に入れた指に力を入れる。
「しゅんく、あれ?」
不敵な笑みはすぐに焦りに変わり、亮太はなまはげのような顔で必死になっている。
「くそ、なんで閉めてんだよ!」
亮太はドアを叩いて窓に顔を近づけて訴えてくる。その様子が動物園にいる猿のようで可笑しいのと同時に少しかわいそうでもあったので仕方なくドアを開けた。
「だから、何閉めたままで開けなんだよ!」
「だって明らかに悪い気配しかないんやもん」
「そんなの聞いてみらんと分からんやろ」
「じゃあ何さ?」
すると亮太はじっと見つめてくる。駿が視線を逸らしても首筋に亮太の視線がチクチクと針のように刺さり、気になって仕方がない。亮太の後ろから女子たちが訝しげな眼でこちらを見て去っていく。男二人が廊下で見つめ合っていたら当然のことだ。すでに悪いことが起きている気がしてならない。
しばらく見つめられたのち、亮太の口角がくいっと上がった。
「行くぞ」と亮太がいきなり腕をつかんで階段の方へ歩いていく。解こうとしたが、思ったよりも力強い亮太の手は完全に駿の腕を施錠しており、びくともしない。
「どこに行くん?」
「よかけんついてこいって」
そう言われてもついていくしかないんだよ……。
駿たちはすれ違うほとんどの人に薄ら笑いされながら階段を駆け下りていった。
最初のコメントを投稿しよう!