第1話◇出会い

1/1
前へ
/16ページ
次へ

第1話◇出会い

 父親の栄転。  大阪から東京へ。  第1志望の高校に入学して、楽しく過ごしていたのに、急に舞い込んできた話。1人で残る訳にもいかず、受け入れるしかなかった。  変な時期に、急遽すぎて、制服も間に合わないし、もう何もかも不満なまま、転入初日。  制服が違う事には、突っ込まれるし、  女子がやたら寄ってきて、男子には敬遠されるし、  関西弁の自己紹介も若干いじられ。  初日からすでに、大阪に帰りたいと思っていた。  気が乗ればバスケ部に体験に行こうと思っていたけれど、今日は即帰ろうと、昇降口に向かっていたら。 「あっ転校生、いた!」  そんな声とともに。走り寄ってくる足音。 「なあなあ!」 「――――……」  走り寄ってきた奴が、オレの前に、滑り込んできた。  ……背ぇちっちゃ。  けど、笑顔が明るすぎて、存在感はやたらある気がする。 「なあ、帰っちゃうの?」 「……は?」 「あ、オレ、隣の2組。北条雅己ね。 なあ、大阪で、バスケ部だったんだろ?自己紹介で言ってたって」 「――――……まあ、そうやけど……」 「中学もバスケ?」 「……小学校から」 「まじで? オレも! なあ、バスケ部、見学来ない?」 「――――……」  めちゃくちゃ楽しそうな、笑顔。 「バスケ部さ、1年人数少ないし、経験者、来てほしい」 「――――……」 「今日もう帰る? 時間ない?」  ……瞳、デカいな。  まっすぐ、見られると、こっちも、逸らせない。 「もし時間あるなら、オレの着替えのTシャツとズボン貸すから」 「……一応持っとる、シューズも」  ……体験に行こうかと、思ってたから。 「えマジで? じゃあ一緒、いこ?」  めっちゃ、笑顔。  つられて、笑ってしまう。 「――――……」  初めて自然と笑った自分。 ふ、と気持ちが上向く。 「ええよ。……行こかな」  思わず、そう答えていた。 「やった」  そんな風に言って、腕を引いてくる。 「更衣室、いこうぜ」  2人で、歩き始める。 「なあ、名前なに?」 「杉森啓介」 「何で、制服違うの? 間に合わなかったのか?」 「……ほんま急な転勤やったから。辞令出て1週間。ありえへんやろ…」 「うわー、大変」 「……お前、名前、何やったけ?」 「北条雅己。 雅己でいいよ」 「ならオレも啓介でええよ」  そう言うと、雅己は、ふい、とオレを見上げてきた。   「――――……なんか……」 「……ん?」 「関西弁て、カッコいいな」 「……そおか? 自己紹介、弄られたで?」 「聞きなれないだけだと思うけど。ていうか、カッコいいから大丈夫」 「大丈夫て……」 「あと、男らが嫉妬してた」 「ん?」 「イケメン転校生、いらねーって」 「……あほらし……」 「まあ、女の子らが超騒いでたし。 分かるけど」  クスクス笑う雅己。 「皆、すぐ慣れると思うよ。バスケ部に啓介のクラスの奴いるし」 「――――……」 「オレも、中2ん時に急に転校したからさ。やだよな、転校ってさー」  そんな風に笑う雅己。  まだ会って、ほんの僅か。なのに。  中身隠さず、全部さらけ出してくるみたいな……。  ――――……それが、すごく心地良くて、何だか、すごく、不思議な……。 「啓介、バスケうまい?」 「……まあ」 「あ、自信ある?」 「まあ」 「すげー楽しみ! 早くいこ」  我慢できなくなったみたいで急に走り出した雅己。  ふ、と笑ってしまう。 「啓介、早く!」  呼ばれて。  嬉しそうな笑顔の雅己の後を追った。   (2021/4/3) 啓介の一人称で、書きたくなってしまって…(^^) ぼちぼち書いていきますので、 お付き合いいただけたら~(*'ω'*)。  by悠里
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1239人が本棚に入れています
本棚に追加