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もし彼が浮気をしているとしたら、それが近所でのことではないことは明白である。というのも、彼はほぼ毎週のように二つ隣の県まで遠出をしているのが明白だからだ。
財布についついレシートを溜め込んでしまうタイプの北見は、溜まってきた時点でレシートを適当な場所で捨てる癖がある。そこまでプライベートな情報だとも思っていないのか、会社の自分の机横のゴミ箱にレシートの類いを捨ててしまうことも珍しくない。
彼が自席を離れた隙にゴミ箱を探ってやると、中から証拠が出るわ出るわ。レシートというものは店の住所も書いてあるし利用した日付や時間も書かれている。その気になればプライバシーを丸裸にできるというのに、なんともガードの甘い男だ。
――リンリンマートねえ。……東京じゃ全然見かけないコンビニだなって思ってたら、このコンビニほぼ群馬にしかないのね。毎週土曜日に、●●町三丁目店で買い物してる。……土曜日に群馬まで何しに行ってるわけ?
買われているのは、何故だか甘いものばかりだ。北見は極端な辛党で、一部を除いては甘いデザートの類いを一切食べない。冷蔵庫に大量のキムチを常に常備しているほどだ。
それなのに毎回のように購入されているのは、牛乳プリンである。それから、コンビニの期間限定商品らしきシュークリームやプリンが何点かずつ。本人がどう見ても好きでもなんでもないものを買っているのはつまり、それをプレゼントする相手が甘いもの好きであるからに他ならないではないか。
――……いえ。でもまだ、これだけじゃ確実な証拠がないわ。何か、他に手がかりになるものでもないかしら。
何でもいい。浮気をしている証拠が欲しい。もし勘違いならそれはそれでいいのだ――とにかく私が、安心できることが最優先なのだから。
昔から苛烈な性格をしている、と言われてきた。愛が重すぎる、相手を束縛しすぎる、嫉妬深すぎる――とも。悲しいかな、それで終わってしまった恋が過去に何度もあったのは事実だ。
北見の前に付き合った高島は、普段優しかったくせに思いどおりにならないとすぐ暴力を振るってくる男だった。最後は“お前はしつこいんだよ!”と殴られた。今思うと別れられて本当に良かったと思う。
その前に付き合った木田は、背が高くてかっこ良かったが臆病だった。自分がいくらアピールしても全然手を出して来ないのだから。それがうっとおしかったのかもしれない、最後には“もう近づかないでくれ”何て言われてしまった。そっちの反応が鈍すぎるから、積極的にアピールしないと伝わってないような気がして不安になるんじゃない――残念ながらそんな私の叫びは彼には届かなかった。
その前の彼氏は大学生の頃だ。同じサークルの先輩で、高校生のような可愛らしい顔立ちが魅力的だった。母性本能を擽られたとでも言えばいいだろうか。だが付き合いはじめてさほど経たないうちに、彼は鬱病になって大学そのものをやめてしまった。何があったのかは知らないが、連絡先を教えてくれなかったのでそのまま自然消滅である。今はどこに住んでいるのかもわからないが、元気でやっているだろうか。
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