ミミットの足跡

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――なんにせよ、愛が重すぎると負担に感じる男がいるのは確かだもの。次の彼氏はほどほどにしなきゃって自分でも思ってたから、メールも電話も控えたのに。  それがかえって良くなかったのかもしれない。彼が浮気をする隙を与えてしまっていたのならとんだ失敗である。やはり男というものは、毎日電話とメールをしてしっかり繋ぎ止めなければいけないイキモノなのもしれない。今時古すぎる価値観だとは思うが――それでも未だに“浮気は男の甲斐性”だなんて宣う馬鹿がいるのも確かなことなのだから。  普段は私の方が先に会社を後にすることが多い。定時で退社することがほとんどの私と、残業がちょこちょこ発生する彼の差である。世間が感染症で大騒ぎしている時に、テレワークどころか残業させるなんてと思わなくもなかったが、彼は営業部でも相当期待されているようなのである程度は仕方ないことなのかもしれなかった。  その日、私は退社したふりをして、会社のすぐ近くの公園でひっそりと待機。彼が会社から出てくるのを見計らって後をつけてみることにしたのである。今日は土曜日ではないから、直接彼女(仮)に会いに行くこともないだろう。それでも、何らかの手がかりを見つけることはできるかもしれないと踏んだのである。  私と彼の最寄り駅は違うが、今回は出費を覚悟の上で彼と同じ駅で下車をした。彼は電車を降りて改札を出ると、思い出したように券売機に立ち寄る。お札を二枚取り出して、Suicaにチャージしていた。 ――なるほど、片道、あるいは往復で二千円ってわけか。  後でレシートにあった住所を調べればはっきりすることではあるが――これでほぼ、彼が土曜日に出掛けている先の最寄り駅がどこか絞れてきそうである。今日は金曜日だし、普段会社に通うだけなら定期券の圏内だろう。それが二千円チャージということは、定期券の圏外で二千円は使おうとしていることを意味している。  あまり几帳面ではない北見だ。Suicaはほぼ残額が尽きるまでチャージしないし、交通費以外でもほぼ使わないことを私は知っている。スーパーやデパートの買い物でさえ、今時珍しい現金派だ。今回も使う最低ギリギリのチャージだろう。ここから二千円で行ける距離に最寄り駅があって、群馬県。あのコンビニがある場所の近く。そこまでわかっていれば、土曜日に彼を待ち伏せすることも可能なはず。うまくいけば彼女(仮)の家を突き止めることも可能だろう。  ただ、ここで少々予期せぬことが起きた。彼は家が家に帰るよりも前に、さらに寄り道をしたのである。寄った先は、老舗のデパート。それも後ろをつけていくと彼が立ち寄った場所は。 ――婦人服売場?しかも……スカーフってなんで?
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