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NCAプレオープニングの前日、ハナとメイコは作品の搬入のために会場となる美術館へ向かう。作品はすでにメイコの元彼から現地に送付されていて、あとは設置するだけだった。といっても、設置は展示スタッフがやってくれるので、ハナとメイコは位置の確認をするだけだった。
「ヴィヴィくんの作品を人より早く見られるのって役得よねぇ」
作品搬入よりも、メイコにとってはそっちが主な目的だ。ヴィヴィの作品もすでに届いていたが、まだ梱包されたまま、所定の壁の前に立てかけられている。
次々と作品の設置が進められる中、長い髪の男性が半透明の袋に雑に包んだ作品を抱えて会場に入ってきた。伸び放題のヒゲに汚れでところどころが黒くなった白いパーカー、黒のスラックス。彼はスタッフに言って作品を設置してもらうと、バックパックから紙やボンドを取り出して床に並べ始めた。並べ終わると長い髪を後ろに結ぶ。やつれた頬があらわになり、大きな目が壁にかけられた作品を見据える。
「あれっ。ヴィヴィくん⁉」
メイコが声を上げる。男性はメイコの声が耳に入らないようで、その場で作品の上に紙を貼りつけていく。紙が重ねられるたびに、画面に描かれていた人の顔に新たな表情が生まれ変化していく。右半面は暗く悲しげな表情に見えるが、左側は生気と怒りに満ちているような迫力だ。
「あの人、今つくってるの?」
ハナは制作の様子を遠くから見ているメイコに話しかけるが、メイコは男性の姿に釘付けになっていて答えない。搬入中に創ってもいいものなのか。それにしても早いなぁと思いながら、ハナは男性に近寄ろうとする。
「ダメっ」
メイコに腕を掴んで止められ、ハナは驚く。
「どうしたの? なに、あの人?」
「後で説明するから! 今は離れて見てて」
メイコの真剣な表情に、ハナは身体をビクリと震わせて立ち止まる。作品の人物はみるみる実在を帯びてきて、その迫力に視線が奪われる。アートに詳しくないハナでも、このアーティストがすごいのが分かった。三十分もかからずに作品を仕上げた男性は、残った紙や道具をバックパックに放り込んで会場の出口へ向かう。メイコがすぐさま後を追いかけ、男性の正面に立った。
「ヴィヴィくん、ですよね?」
「そうだ。作品見たら分かるだろ?」
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